神殺しのクロノスタシスⅣ

…でもさ。

ちょっと冷静に考えてみたら。

「ツキナのその夢、いちご畑ってさ」

「んんー?」

「別に将来の夢にしなくても、今実現可能なんじゃないの?」

畑なら、ここにあるじゃん。

いつも他の野菜を植えてるみたいに、今あるこの土地に、いちごの苗を植えれば良いのでは?

それでいちご畑完成。

これじゃ駄目なの?

「無理だよぅ。うちの園芸部には、見渡す限りの土地なんてないもん」

成程。

ツキナの夢って、妙に詳細なところあるよね。

夢は大きく、ってね。

見渡す限りの広大な土地か…。それはまず、土地を用意するところから始めなきゃならないなぁ…。

そこを耕すのも大変そうだ。

「それに、いちごを育てるのって、結構大変なんだよ」

「え、そーなの?」

「うん」

園芸部の部長で、様々な野菜や花をたくさん育ててきたツキナが、「大変だ」って言うのだ。

いちごとやら、結構な曲者であるらしい。

さすが、ツキナの夢になるだけのことはある。

「虫もいっぱい来るし、鳥さんもいっぱい来るし、色んな動物が食べに来るんだよ」

「へぇ〜…」

奴ら、人間様の収穫を勝手に横取りして掠め取ろうという腹か。

獣畜生の分際で、良い度胸してんじゃん。

しかし、そういうことなら心配は要らない。

「大丈夫だよツキナ。俺が糸魔法使って、動物は絶対入れないようトラップを仕掛けておいてあげる」

「え?すぐり君そんなこと出来るの?」

きらんきらん、と目を輝かせるツキナ。

お、めっちゃ可愛いぞ。

「よゆーだよ、それくらい」

何せ、俺の糸魔法は、あっさり人を殺せるほどの殺傷能力を誇るからね。

害獣を撃退することくらい、訳ない。

「でもでも、畑広いよ?全部守れる?」

「葉っぱ一枚とて、ツキナの大事ないちご畑を荒させないよ」

「やったー!すぐり君凄い!」

よし。

これで、さりげなくツキナの夢に、俺を便乗させることに成功。

ツキナが夢を叶える瞬間なら、俺もいないと駄目だよね〜。

「すぐり君がいてくれるなら、いちご畑の夢も夢じゃないかも!」

「うんうん。出来る出来る。問題は土地だね〜」

「土地か〜…。よーし。じゃあ大きくなったらお金を貯めて、広い土地を買って、そこでいちご畑を育てよう!それが私の夢だ!」

壮大だなぁ。

それって結局、魔導師は副業じゃないの?

と思ったけど、まぁ口には出さなかった。

俺もツキナの夢に乗っかることが出来るんならそれで良いよ、俺は。