神殺しのクロノスタシスⅣ

いちご畑かー。

お花畑〜とか言ってたんだし、いちご畑に憧れてもおかしくないよね。

「春になったら、見渡す限りいちごがたわわに実っててね〜、さながら!いちご狩り!みたいな!その場で好きなの摘んで、練乳をかけて、お腹い〜っぱい食べるの!」

ほうほう。

夢が広がるねー。

武士口調はもうやめたの?

「幸せだよ〜。想像しただけで幸せ!だから私、将来そんないちご畑を作るのが夢なんだ〜!」

少なくとも、白馬の王子と一緒に秘密のお花畑、よりは現実味がある夢だね。

俺は安心したよ。

あれに比べたらいちご畑くらい、全然らくしょー…。

…だけども。

「ねー、ツキナさ」

「何々〜?」

「ツキナって魔導師になるんじゃないの?いちご畑が夢なの?魔導師は?」

「…」

そんな無邪気な顔でポカンとされても…。

今思い出したんだろうか?

自分がイーニシュフェルト魔導学院の生徒だってことを?

「…そうであったー!!」

やっぱり今思い出したんだ。

おっそいなー…。可愛い。

「それは、それは、それはね?魔導師も夢だよちゃんと!」

「ツキナ魔導師になるの?なれるの?」

現状のツキナ、向かうところいちご農家だよ。

魔導師全然関係ない。

「なれるもん!それがしは、立派な聖魔騎士団魔導部隊の魔導師になる所存!」

そーなんだ。

「…それは副業?本業はいちご農家で…」

「逆、逆!本業が魔導師で、副業でいちご育てるの!」

やっぱりいちごは育てるんだ。

それは諦めきれないんだね。成程〜。

魔導師やりながらいちご育ててる人なんて、聞いたことないけど。

まールーデュニア聖王国だって広いし、中にはそういう人も…。

…いるのか?

「あうあう…。でもやっぱり、小論文にはちゃんと『魔導師になります』って書いた方が良いのかな?いちご育てたいなんて言ったら、イレース先生怒るかな?」

途端に不安になったらしいツキナ。

かなりの変化球だもんね、ツキナ…。恐らくクラスの大半が「立派な魔導師に…」とか言ってる中。

一人だけドヤ顔で、「いちごをたくさん育てて、セルフいちご狩りします!」なんて高らかに宣言したら。

君、今すぐ魔導学院じゃなくて、農業学校行きなよ、って言われそう。

…だけど、ツキナが農業学校に行ったら、俺が困るので。

「大丈夫でしょ、別に。将来、一生かけていちご農家やる訳じゃないんだし」

別にあの作文って、課題とは言ってるけど、成績に直接反映されるものじゃないんでしょ?

ただ、生徒の風紀?とやらを取り締まる為のもので。

将来の夢に限らず、目下の目標を書いても良いらしいし。

園芸部でいちご畑を作るのが目標です、って言えば。

「それだけで怒られたりしないよ、きっと。だいじょぶだいじょぶ」

「そ、そうかなっ…。なら良かった!」

ツキナは気にせず、自分の夢の為に邁進してくれ。