神殺しのクロノスタシスⅣ

すると。

「それはどうなのかな…」

天音が、ちょっぴり懸念を示した。

だよな。

それがナジュの、永遠の命題だってことは分かってるが。

だからって、学生らしい夢を語るであろう生徒達を横目に。

「将来の夢は死ぬことです(キリッ)」って、それはどうなんだ。

教師陣は、生徒の前で発表することはない。

教師は教師の前で発表するので、俺達の将来の夢を、生徒が聞くことはない。

だから、ナジュのその「将来の夢」は…教員達なら皆知っている。けれども。

だからって、将来の夢=死って、それは如何なものか。

「他にないの?死ぬ以外の夢…」

「え?難しいこと聞きますね」

むしろ、真っ先に死が出てくる方が難しいだろう。

大抵の人にとって、死は誰にでも待っているものだからな。

わざわざ将来の夢にするのは、ナジュくらいだ。

「もっと健全な、将来の夢はない?」

「健全…!?」

そんな目を見開かなくても良いだろ。

「仕方ありませんね…。天音さんに免じて、僕は新たな夢を見ることにします」

「う、うん。宜しく。どんな夢を見るの?」

「イーニシュフェルト魔導学院1の、イケメンカリスマ教師になります」

別に新しくねーじゃん。

前々から、事あるごとに言ってるじゃん。

「そ、そっか…。それは良い夢だと思うよ」

天音。無理して褒めなくても良いんだぞ。

むしろ苦言を呈して良い。「それはやめておいたら?」とか。

まぁ、死ぬことよりは随分とマシだけど。

「そう言う天音は、将来の夢って何なんだ?」

「え?あ、えっと…実は、ちょっと考えてることがあって」

ほう?

それは是非聞いてみたい。

「聞いても良いか?どんなこと考えてるのか」

「出来るかどうかは分からないけど…」

「あくまで目標だからな。出来る出来ないは別の話で良いだろ」

ナジュのイケメンカリスマ教師とやらも、実現不可能だろうし。

「え?何で実現不可能なんですか。実現出来ますよ」

うるせぇ。

「やっぱり僕、一応養護教員だから。生徒の健康管理と体力増進を目指して、色んなキャンペーンを始めてみようかなって」

「へぇ…?」

なかなかそれっぽいな。

「例えば、どんなことするんだ?」

「今考えてるのは…風邪の予防対策かな。これから寒い時期にもなるし。手洗いうがいの徹底や、休み時間に窓を開けて、換気をする取り組みを始めてみようと思うんだ」
 
成程。具体的だな。

天音も色々考えてるんだなぁ。偉い。

これなら、小論文に書くことも困るまい。

「そうか…。お前は偉いな、天音…」

「い、いや。そんなことは…」

「僕も褒めてくださいよ、羽久さん」

「お前はない」

精々、自称イケメンカリスマ教師にでもなっておけ。