「最近、教師を含め、学院の風紀が乱れていると思います」

何の脈絡もなく。

イレースは唐突に、そう言い始めた。

…いきなり言うから、ちょっとびっくりしたよ。

「そ…そうか?」

「えぇ、そうです。まずはあれをご覧なさい」

そう言って、イレースが指差した先では。

「ふっふっふ〜。秋の〜チョコレートは〜♪モンブラン味とー、スイートポテト味とー、アップルパイ味!やっぱり秋は良いよね〜!美味しいチョコレートがいっぱい!」

満面笑みで、よりどりみどりのチョコレートに夢中のシルナ。

…成程。

更に。

「次に、あれをご覧なさい」

と、イレースが指差した先では。

「他に侵入経路は?」

「うん。職員室の端っこの窓の鍵、壊しといたからさー。あそこから侵入すれば良いよ」

「成程、分かった。じゃあそこから侵入して…あとは逃走ルートの確保だね」

「シルナマツムシはどう対策する?」

「大丈夫。角砂糖撒いたら、それに群がっていったから」

手書きの学院内の地図を見ながら、怪しげな会話をする元暗殺者生徒。

何の相談?

最後に。

「今日イヤリングつけてるんだね、ナジュ君」

「お、気づきました?実はこれ、自作なんです」

「えっ。イヤリングって自分で作れるの?」

「器用ですからね、僕」

「へぇ〜…。凄いなぁ」

耳につけたイヤリングを自慢するナジュと、それを褒め称える天音。

確かに、よく見たら…ナジュの耳に、キラキラとイヤリングが光っている。

あれ自分で作ったのか。器用だな本当に。

しかし。

「分かったでしょう?…この、乱れに乱れた風紀」 

イレースは、全身の毛を逆立てんばかりに殺気立っていた。

怖っ…。

「…とりあえず、イヤリングは有り得ません。即刻外しなさい」

「へ?ちょ、いだだだだ。それ耳。イヤリングじゃなくて。それ耳ですから」

千切れんばかりに、ナジュの耳を引っ張りまくっていた。怖い。

ナジュのイヤリングより、夜間外出を目論む元暗殺者組の方を、先に止めるべきなのでは?

まぁ、シルナを放っとくのは分かるけど。

「何なんですか、この乱れきった風紀は」

イレースは、仁王立ちしてそう言った。