フォンダンショコラを食べ終えた三人娘が、笑顔で手を振って学院長室を後にした。

その後シルナは、自分の名札を見ながら、色々思案していた。

「良いね、デコ名札!やってみようかな〜生徒とお揃いだよ、お揃い!」

良い歳したおっさんが、何をはしゃいでるんだか。

「チョコの匂いつけたいな〜!そしたら、チョコ食べてないときでも、名札の匂いを嗅いだら満たされるかも」

名札の用途じゃねぇだろ、それ。

「僕の名札も、良い香りしますよ。お気に入りのですね、オリエンタルな香水をつけてますから」

「うっ…。い、良い匂いだけど、何だかクラっとする匂いだね…」

「でしょう?グラマラスな気分になれますよ」

ナジュは誰よりも最先端を行ってるし。

お前も、名札に匂いまでつけてたのか。

つーかお前は教師なんだから、匂いをつけるにしても、もう少し爽やかな香りにしろよ。

「天音の名札は、匂いつけられたのか?」

「うん…。僕のは…ピーチの香りだって…」

そうか。

生徒達に、好き勝手やられたらしいな。

天音って優しいし怒らないから、少々羽目を外しても良いと判断されたんだろう。

一方、そんな天音とは対象的に。

「学校から支給された生徒手帳や名札に、余計な手を加えるなんて…。言語道断です」

生徒達のデコブームに、異論を唱えるイレースである。

まぁ、イレースにしてみれば、そうなんだろう。

学校からの支給品で遊ぶな、と言いたいんだろうが…。

「よし!私もフェイクスイーツをたくさんつけて、チョコの香りをつけよう!」

学院長であるシルナが、誰よりも乗り気なんだもんなぁ。

いくらイレースが一人反対しても、学院長がこれじゃあ、説得力がない。

イレースのジト目にも気づかないシルナは、るんるんと名札片手に鼻歌を歌っていた。

呑気な奴だよ。

…と、思っていると。

「あ、天音せんせーもデコってんじゃ〜ん」

「本当だ。不死身先生もきらきらしてるね」

「!?」

いきなり、ここにはいなかったはずの人間の声がして。

慌てて振り向くと、そこには。

令月とすぐり、元暗殺者生徒二人が、しげしげと天音とナジュの名札を眺めていた。

…お前ら、いつの間に…。

よく見ると、部屋の窓が開け放たれて、カーテンがひらひらはためいている。

…あのさ。

入ってくるのは良いんだけど、窓からじゃなくて扉から入ってこい。

あと、無駄に気配を消すんじゃない。びっくりするだろ。

って何度言っても聞かないから、もう言わないけどさ。