「天音(あまね)君!天音君じゃないか!」

シルナはそう叫ぶなり、入ってきたばかりの天音の両肩を、ガシッと掴んだ。

おい、やめろ。

天音びっくりしてるだろうが。

「大変なんだよ天音君!私の!可愛い!生徒が!足りないの!」

お前のものではないだろ。

「え、あ、は、はい…?」

鬼気迫る気迫のシルナに、完全に困惑している天音である。

気の毒過ぎる。

「何処!?私の生徒何処!?大変だよこれは!チョコあげなきゃならないのに!生徒が戻ってこないなんてー!」

…言っとくがな、シルナ。

生徒達は、授業を受ける為に学院に戻ってくるのであって。

チョコもらいに帰ってくる訳じゃねーから。

「どうしよう天音君!?どうしたら良いの!?何処行っちゃったのあの子達!?」

「え、えぇと、その件で、たった今事務局の方に連絡が、」

「もしかして拉致!?拉致なの!?私の生徒が可愛いからって、何者かが私の生徒を拉致したんだ!?」

「えぇ!?違いますよ。あの、今シャネオンの駅から、れんら、」

「助けに行けなきゃ!今すぐ!私の生徒を救出する!待っててね皆!今シルナが助けに、」

「いい加減にしろ、この馬鹿!」

「あ痛っ」

俺は、シルナの後頭部を引っ叩いた。

おかしな方向に興奮しているシルナを落ち着かせる為。

そして何より、両肩を揺さぶられて、理不尽に怒鳴られている天音を救出する為である。

「な、何するの羽久…?」

「落ち着いて話を聞け、馬鹿」

今、天音が何か言いかけてただろうが。

「あー、成程ね〜」

ほら見ろ。早速天音の心を読んだらしいナジュが、一人で納得してやがる。

「『しゃねおんのえき』って、何処だろう?」

「さぁ、知らない。そんな地名があるの?長っ」

と、首を傾げている異国の元暗殺者組。

後で、この国の地理、教えてやるからな。

ともかく。

「天音、どうしたんだ?何の連絡が入ったって?」

「あ、うん…。南方都市シャネオンからの列車が全便、始発から運転見合わせ中だって…」

天音の、この簡潔な返事は。

俺達のさっきまでの疑問を、一瞬で解決してくれた。