神殺しのクロノスタシスⅣ

待ち合わせ場所には、既に『八千歳』が来て待っていた。

「遅いよ、もー。何やってんの」

「ごめん」

「さー、早くパトロールするよ」

「うん」

僕は『八千歳』と共に、学院敷地内のパトロールに出かけた。

…え?何でこんなことしてるのかって?

ほら、最近何かと物騒だから。

賢者の石の一件とか、白雪姫の一件とか。

『アメノミコト』との諍いだって、今は冷戦状態だけど、いつまた再燃するか分からないし。

昼間ならともかく、僕らの時間である夜の間に、学院に何かあったら申し訳が立たない。

そう思って『八千歳』に相談し、話し合って。

こうして毎晩、夜間パトロールに出ようということになった。

二人で灯り代わりの提灯を持って、深夜の学院を歩いて回り、異常がないかを確かめる。

ちなみに学院の敷地内には常に、学院長の分身が警備代わりにうようよしている。

シルナヤママユガを始め、夜行性の昆虫が多いのだが。

「はいはーい。こっちだよー」

『八千歳』が提灯で照らすと、シルナヤママユガは一斉に群がってきた。

更に。

「はい、砂糖」

持ってきた角砂糖を砕いて、軽くパラパラと撒くと。

学院長の分身虫達は、凄まじい勢いで群がってくる。
 
こういうところは、本人の習性を踏襲しているらしい。

いずれにしても、学院長の分身パトロール隊はこのように、簡単に掻い潜ることが出来るので。

全然宛にならない。
 
やっぱり、僕達が実際に目で見て、確認する方が良い。

今夜もそれを実感しながら、今夜も月に見守られて夜のパトロールである。

…すると。

「今日ツキナがさー」

と、『八千歳』が喋り始めた。

ツキナ。『八千歳』が所属している園芸部の部長だ。

『八千歳』は、このツキナという人物に関する話をすることが多い。

そして彼女について話しているときの『八千歳』は、とても楽しそうなのだ。

ツキナという女の子は、『八千歳』を笑顔にすることが出来るんだな。

有り難くもあり、羨ましくもある。

僕もそうなれたらなぁ。

「って、聞いてる?」

「聞いてるよ」

「ツキナが、生徒手帳をデコったんだって」

「へぇ」

やっぱり、二年生でも流行ってるんだ。

「それで、ついでに俺のもデコってくれたんだー。ほら、大根柄」

『八千歳』が、自分の生徒手帳を見せてくれた。

本当に、大根の模様がプリントされた布でカバーしてる。

初めて見た。

「何で大根なの?」

「さぁ」

「でも、お洒落だね」

「でしょー?ツキナのセンスには脱帽だよ」

『八千歳』も、生徒手帳デコレーションしてたんだ。

それは奇遇だな。