神殺しのクロノスタシスⅣ

「何で干すの?」

「私もね、生徒手帳に良い匂いをつけたいんだ」

そーなんだ。

流行りに乗っかりたい系女子、ツキナ。
 
「で、何の匂いが良いかな〜?って、色々考えたの」

「そっか」

「実は、授業中もちょっと考えてたんだ!えへへ」

笑って誤魔化す系女子、ツキナ。

まー、俺も授業中、結構余所事考えるタイプだから、人のこと言えないけど。

「でね、気づいたんだ。私の一番好きな匂いって何かな〜って」

「うん。何の匂いだったの?」

「お日様の匂い!」

…。

あー分かるー、太陽って良い匂いするよねー。芳香剤とかも全部太陽の香りにしてるよ俺ー。

…って、ないよそんなことは。

「お日様って、良い匂いするでしょ?」

「ごめんツキナ…。俺、さすがに太陽の匂いを嗅ぎに行ったことはないや」

雨には匂いがあるって言うし、雨が降る前になると何となく分かるけど。

太陽に匂いって、ある?

と、思ったら。

「ほら、お布団干したときって、凄く良い匂いするでしょ?」

あ、そーゆうこと?

それってさー、あれじゃない?

太陽の匂いが好きって言うより、ただ干した布団の匂いが好きなだけでは?

あれ?そーいやあれって、お日様の匂いじゃなくて、ダニの死骸の匂いだ、って聞いたことあるんだけど。

あれって都市伝説なの?

「お日様の匂いって良いよね〜。何かこう…気分が、ほかほか〜っ!とするよね〜!」

まー、ツキナはあれがお日様の匂いだと思い込んでるようだから、水を差すのはやめておくけどさー。

あと、ほかほかするのはツキナじゃなくて、太陽の日差しを浴びて暖かくなった布団の方では?

とにかくツキナは、干したての布団がお気に入りらしい。

俺にはよく分かんないなー。

ほら、俺の寝具って昔から、ゴザだし。

イグサの匂いはするけど、お日様の匂いはしないなー。

「だから生徒手帳を干して、お日様の匂いをつけたいんだ〜」

「成程ね〜」

理解はしたけど…そう上手く行くかなー?

まー、俺は生徒手帳の匂いなんて、どーでも良いし。

「よーし、干しとこ〜」

「はいはい、干しとこ〜」

とりあえず俺は、ツキナの笑顔が見たいだけなので。

ツキナに付き合って、生徒手帳を畑の傍に干しておいた。

さて、これでお日様の匂いとやらはつくのだろうか。

何でも良いけど、雨降らなければいーね。