神殺しのクロノスタシスⅣ

何を見せに来たのかと思ったら、それは。

「…?生徒手帳?」

「うん、生徒手帳!」

黒いケースに入っている、写真入りの生徒手帳。

俺も持っているけど。

しかしツキナの生徒手帳は、俺が持っているものとは違っていた。

デフォルトでは、イーニシュフェルト魔導学院、と隅っこに刺繍された、黒いブックカバーみたいなケースに入っているのだが。

ツキナの生徒手帳は、そのケースが取り外され。

代わりに、大根模様の布で出来た、オリジナルケースに入っていた。

…何これ?

何で大根模様?

「ね、可愛いでしょ?」

「うん、かわいーね」

生徒手帳がって言うより、はしゃいでるツキナが可愛い。

ぶっちゃけ、大根がプリントされた布生地なんて、初めて見たし。

これの何が可愛いのか、俺にはさっぱり分からない。

どういう趣味?

でも、はしゃいでるツキナが可愛いから良いや。

それに、あれだよ。

女の子が「可愛い」って言ってたら、男はそれに合わせとくもんだよ。

「え?これの何処が可愛いの?」なんて聞いたら、絶対機嫌を損ねるに決まってるもん。

乙女心って奴だよ。俺って分かってる〜。

あ、これナジュせんせーの受け売りだから。

しかし、これだけは聞きたい。

「…その、大根模様の生地さ」

「え?可愛いでしょ?」

「うん、かわいーんだけどさ。それ何処に売ってたの?」

「手芸屋さん!」

そんな生地を売る手芸屋があるんだ。

売れると思って仕入れたんだろうか。

まさか手芸屋の方も、この大根生地が売れるとは思ってなかっただろうなぁ。

「こんなに可愛いのに、何だかすっごく安売りされててね〜。お陰でお得に買えちゃった!」

だろーね。

良かった。俺の感覚って間違ってなかったんだ。

ルーデュニア人は、おかしなデザインが好きなのかと思ったよ。

ツキナだけなんだ。あー良かった。

可愛い。

しかも、ツキナは生徒手帳の中まで開いて見せてくれた。

「これ見て〜。可愛いでしょー?」

「おー…。本当だねー」

生徒手帳をぺらっと捲ってみると、表紙の白いところに、野菜や果物のシールがぺたぺた貼ってあった。

にんじん、じゃがいも、きゅうり、トマト、ナス、エトセトラ…。

凄いね。

こんなシール、一体何処に売ってたんだろう?

これの可愛さはよく分からないけど、でもやっぱり、はしゃいでるツキナは可愛い。

だから良しとしよう。