不味い。

いつの間にか、二十音が出てきてしまった。

無理もない。本体である羽久の身体が、これほどまでに傷つけられ。

更に…不覚にも、私まで負傷してしまったのだ。

この「緊急事態」を見て、二十音が出てこないはずがない。

二十音自身の、そして何より…私を傷つける敵が、目の前にいる。

それだけで、二十音にとっては許せない事態だ。

いかなる手段を以てしても、二十音は私の敵を排除する。

おまけに、今私達が対峙している白雪姫は人間ではないのだ。

命を持たない、人形…魔法道具。

一片も残さずに、徹底的に、破壊の限りを尽くすだろう。

…それこそ、そこにいる珠蓮君を始め、イーニシュフェルト魔導学院仲間達を、平気で巻き込んで。

珠蓮君が賢者の石で、魔法を相殺してくれているとはいえ。

賢者の石は、完全な魔封じの道具ではない。

ましてや、私でさえ防ぐことは困難な二十音の魔法を、完全に相殺することは出来ないだろう。

従って、二十音に白雪姫を攻撃させたら駄目だ。

白雪姫を壊すどころではない被害が出る。

それにあの白雪姫は…『白雪姫と七人の小人』は…止める方法があるのだ。

闇雲に、力ずくで壊すのではなくて…。

何としても、周囲に被害を出さない「正しい方法」で、再び白雪姫を封印しなければ。

「っ…!」

しかし、既に二十音は、白雪姫に肉薄していた。

その片手には、懐中時計が握られていた。

止めないと。二十音を、私が止めなければ!

「二十音!壊しちゃ駄目!!」

私が強くそう叫ぶが、二十音はまるで耳を貸さない。

お願いだから、私の言うことを聞いてくれ。

「止(と)めて、二十音!!白雪姫の、時間を止めるんだ!壊すんじゃなくて!」

私は、必死に二十音にそう哀願した。

「止めるんだ!お願い!!二十音、良い子だから!!」

「良い子」と言うと。

二十音は、その言葉にピクリと反応した。