神殺しのクロノスタシスⅣ

令月が突き刺した小刀は、白雪姫の首にグサリと刺さったまま、押しても引いても抜けない。

すぐりの糸は、白雪姫の胴体を両断する前にぷつりと切れて、糸そのものが消滅した。

それどころか。

ぐるりと首を回した白雪姫は、小刀を突き刺した格好のままの令月に向かって、がぱっ、と口を開けた。

血にまみれたその牙が、令月に噛みつこうとした。

やばっ…、

「『八千代』!糸!」

「!」

咄嗟に助けに入ろうとしたが、さすが、そこは相棒の方が早かった。

すぐりが叫ぶなり、令月は小刀から手を離し、すぐりの引いた糸に足を触れた。

途端、ゴムに弾かれたように、令月の身体が吹き飛んだ。

すぐりの糸で、後方に飛ばされたのだ。

そうしなければ、白雪姫に噛みつかれていた。

ただ、とんでもない速度と角度で飛んだせいで、上手く着地出来ず、凄まじい音を立てて壁に激突していた。

それでも、白雪姫に噛みつかれるよりはマシだ。

「大丈夫か令月!?」

「うん…平気」

壁に激突したにも関わらず、令月はすっくと立ち上がった。

ちゃんと受け身は取っていたらしい。

それで。

「ナジュ!」

「いたたた…。歯型ついてますよ、これ…」

首から肩にかけて、白雪姫に肉を抉られたナジュは。

それはもう、スプラッター映画のような有り様になっていた。

ナジュの周りが、一瞬にして血の海だ。

「ナジュ君…!しっかりして!」

天音が急いで駆け寄り、回復魔法をかけていた。

その間、イレースが空間魔法を使って、学院長室を異空間に飛ばしていた。

賢明な判断だ。

こんなところでドンパチしてたら、生徒が何事かと入って来かねない。

絶対に、生徒にはこのグロ白雪姫を見せたくない。

一生モノのトラウマだ。

で、それよりも。

「何で俺の魔法が効かないのかな」

「僕の力魔法も通じなかった」

すぐりと令月が、それぞれそう言った。

そう、気になるのはその点だ。

二人共、確かに白雪姫に致命的な一撃を与えようとしていた。

それなのに、その攻撃がまるで通らなかった。

一応令月の小刀は、白雪姫の首に突き刺さったままだが。

あいつは人形なのだ。痛覚はない。

首に小刀が突き刺さっていようが、問題なく動ける。

「あいつも、賢者の石みたいに魔封じの力があるの?」

と、尋ねる令月に、珠蓮が答えた。

「いや…そんなはずはない。魔封じの力を持つのは、賢者の石だけだ」

…だとしたら、何で…令月とすぐりの魔法が、通用しなかったんだ?