神殺しのクロノスタシスⅣ

あ、やべ。と思う暇もなかった。

お前、タイミング完璧かよ。

水色の服を着た小人が、よじよじと棺桶から出てきた。

今度は…今度は何の感情を集める小人だ?

その前に。

「おい、契約はちょっと待て。こっちはまだ取り込み中、」

「やぁ!僕は『楽しさ』の小人だよ」

話を聞けよ。陽気に挨拶をするな。

「楽しさ」…喜怒哀楽の「楽」とでも言うのか。

それは良いとして、今出てくるんじゃない。

まだ珠蓮が契約すると決まった訳じゃ…。

「ふーん。契約候補は三人か…。誰にしようかな〜」

「やめろって。珠蓮を頭数に入れんな」

まだそうと決まった訳じゃないんだから。

しかし、そんな事情は小人には通用しない。

こいつらの残虐、暴虐ぶりは、これまででよく学習している。

案の定。

「へぇ?その子と契約して欲しくないんだ?」

珠蓮の方を向いて、水色小人が言った。

「感情を教えるのが下手なのかなぁ。良いね、面白いじゃん」

何がだよ?

お前の面白さの基準は何なんだ。

「よーし。じゃあ君に決めた!君が、僕に『楽しさ』を教えておくれよ亅

「あっ!こら、まっ…」

と、止める暇もなかった。

水色小人は、珠蓮の指に契約の指輪…茨の指輪を巻き付かせた。

や…。

…やりやがった。

本人の同意もなく、勝手に契約を…!

「こんの野郎…!何勝手なことしてくれてんだ!」

思わず胸ぐらを掴み上げるが、水色小人はへらへらと笑うばかり。

「もう契約しちゃったもんね〜」

ガキかよ。

おっさんのなりして、言動がただのクソガキだ。

「さぁ、僕に『楽しさ』を教えておくれ。僕を楽しませてよ。さもないと、君は七日後に死ぬからね」

「…」

あまりに唐突に、命の危険を孕む契約を強要されたというのに。

珠蓮は落ち着いたもので、取り乱すことも狼狽えることもなかった。

どうしてそんなに落ち着いてられるんだ。

ただ、じっと自分の指に嵌められた、茨の指輪を眺めていた。

…それとも、まだ実感がないだけだろうか?

まさか七日後に、その指輪に殺されるかもしれないという実感が…。

「さぁ、グズグズしてたら死んじゃうよ?早く、僕を楽しませて」

急かす小人を、ちらりと一瞥した珠蓮は。

驚くべき一言を、俺達に言った。

「…こんなものを、いちいち相手にしていたのか?」

「…え?」

そして珠蓮は、あろうことか。

自分の指に嵌められた茨の指輪を、力ずくで引き千切った。