神殺しのクロノスタシスⅣ

「実は…元凶は、これなんだけど…」

シルナは、白い棺桶を指差した。

棺桶の中には、ドレスを着た白雪姫の人形が、両手を合わせて眠っている。

彼女が握っている瓶には、透明な液体が入っている。

これまでに小人を通して収集した、感情の小瓶の中身だ。

様々な色の感情が混ざって、黒になるのかと思ったら、何故か透明だ。

不思議だよな。

「これは…」

「『白雪姫と七人の小人』って言って…。賢者の石と同じく、イーニシュフェルトの里で研究されていた、魔法道具の一つなんだ」

「…」

珠蓮は、無言で棺桶の中を見つめていた。

…何考えてるんだろう?

変なもん見つけてきやがったな、とか思ってるのだろうか?

違うんだよ。園芸部の畑に埋まっててさ。

「多分、賢者の石の封印が解かれたことで、一緒に出土したんじゃないかと思うんだ」

「…そうか。確かに…イーニシュフェルトの里には、賢者の石以外にも、様々な魔法道具が存在し…それぞれ封印を施されたと聞いた」

イーサ・デルムトを通して、珠蓮にも伝わっていたか。

「その一つが、これか…」

「そうなんだ。とはいえ、私もこれ…『白雪姫と七人の小人』については、あまり詳しくなくてね…。珠蓮君、何か知ってるかな…?」

と、シルナは縋るように尋ねた。

しかし。
 
「…済まない。この魔法道具については、俺も聞いたことはない」

…そうなのか。

まぁ、しょうがないか。

珠蓮の担当は、あくまでも賢者の石だし。

無数に残されているであろう魔法道具の全てを、いちいち熟知出来るはずがない。

シルナでさえ、そこまで記憶にないって言うんだからな。

「それで、この魔法道具をどうしようと?また封印するのか?」

「いや、それが…。この魔法道具、棺桶の中から、それぞれ一つずつの感情を司る小人が、全部で七人出てきて…。それぞれが持ってる空の感情の小瓶を、いっぱいにしてあげなきゃならないんだ」

「…」
 
この説明で、理解してもらえるだろうか?

普通は無理だよな。

「七日以内にそれが出来なかったら、小人と契約した者が、白雪姫の毒で殺されるらしいんだ」

「今のところ、何だかんだ六人の小人と契約して、六人分の感情を集めたんだけど…」

「…残る一人分を、俺が回収すれば良いのか?」

理解してもらえた。すげぇ。

珠蓮の理解力が半端じゃない。

お前は話の分かる男だよ。

「厚かましい頼みだってことは、百も承知だよ。それに…『白雪姫と七人の小人』との契約は、命を懸けてもらうことにもなる…」

「…」

下手をすれば、命はないのだ。

ナジュは不死身だったから、死なずに済んだだけで。

七日間の契約期間に、感情の小瓶をいっぱいに出来なかったら…そのときは…。

…だから、こんな頼みは、厚かましいにも程がある。

「…無理にとは言わない。断ってくれても構わない。お前は、賢者の石の封印を守ってるんだし…」

もし珠蓮に、万一のことがあったら…賢者の石の封印は、永遠に失われてしまうことになる。

封印を守る為にも、珠蓮はみだりに命の危険を犯すべきではない。

呼びつけておいて何だ、と思われそうだが…。

きちんと説明をした上で、それでも無理だと思うなら、遠慮なく断ってくれれば…。

すると。

「…それは構わないが、その前に…」

と、珠蓮が言おうとした、

そのときだった。

待ってましたと言わんばかりに、棺桶の中から、ひょこっと小人が現れた。