――――――…分かっていたことではあるが。

やっぱり、『白雪姫と七人の小人』の毒くらいでは、僕を殺すことは出来ないか。

ちょっと痛くはあったけど、それだけだ。

あれなら『アメノミコト』の毒の方が、余程辛い。
 
予想以上に余裕だったな。

と、僕は思っていたのだが。

「あんな危ないことするなんて…」

ケーキまみれの顔を拭きながら、天音さんはまだブツブツ言っていた。

試しに心の中を読んでみると、思わず笑いそうになった。

この人、顔面ケーキまでされたのに。

ピンクに対する怒りなんて、欠片も持ってないどころか。

「ナジュ君が毒で死ななくて良かった」とか思ってる。

僕の心は海より広いけど、天音さんの心の広さは宇宙規模だな。

…ところで。

「いつの間に、心の中で僕のこと君呼びしてるんですか?」

「えっ!?」

天音さんは、ビクッとしてこちらを見た。

「ば…バレてた?」

バレてた?ってあなた…。

「心の中読めますからね、僕は」

「そ、そうだった…。…ごめん…」

「別に謝らなくて良いですよ」

むしろ、いつの間にか天音さんに…何て言うか…。

…。

「…友達認定されてます?」

そんな訳ないだろ調子にのるな、と言われたら、速攻謝罪しますが。

天音さんはと言うと。

「えっ?僕達友達じゃなかったの…?」

あ、済みません。

友達じゃないと思ってたの、僕だけでした。

友達じゃないと思っていたと言うか、友達だと思うなんておこがましい、と言うか…。

でも…そうか。

天音さんが、そう思ってくれるなら。

「…じゃあ、今日から心の中だけに限らず、好きに呼んで良いですよ」

呼び捨てでも、君付けでも、何でもどうぞ。

いえ、原状維持で、と言うならそれでも良し。

「そう?じゃあ遠慮なく…ナジュ君で」

「そうですか」

「実は、頭の中では君付けしてるのに、実際呼ぶときはさん付けしてたから、使い分けるのが面倒だったんだ」

それなら、もっと早く言ってくれたら良かったのに。

謙虚ですねぇ。

とにかく、まぁ、そういうことで。

「ケーキ、駄目になっちゃったね…」

「良いですよ。また作りますから」

友達に食べさせてあげた最初のケーキが、顔面ケーキなんて、あまりに悲しいからな。

また作りますよ。

「本当?ありがとう。待ってるね」

「えぇ、待っててください」

そういうことで、これで。