神殺しのクロノスタシスⅣ

ナジュ。

お前、この状況で、よく「怒らないで」と言えるな。

「大丈夫ですよ小人さん。天音さんは優しいですからね、ちゃんと許してくれますよ。笑ってね」

「そう?」

「えぇ。だから、ここいらで『天音さんの契約は』終わりにしてあげてくれませんかね?こんなときでも笑って許してくれる天音さんは、充分優しいでしょう」

お…おい。

ナジュ、お前何を言って…。

「ふーん…?そうだね〜、まぁ良いよ。天音君だっけ?君は、結構優しくしてくれたからね。昨日は変なこと言ってきたけど…。まぁ、今のでプラマイゼロってことで」

生意気にも、にやにや笑いながら言うピンク。

「だ、そうです。さぁ天音さん、笑って許してあげてください」

「そ、そんな…。ナジュさん、何でそんなこと、勝手に…」

「良いじゃないですか。ここで笑っとけば、契約終わりですよ?それに、僕は怒ってくれなんて言ってません。ケーキなんて、また作れば良いんですし。つまらないことで怒らせて、余計拗らせて欲しくないんです、僕は」

「っ…」

そう言われると、天音も強くは出られない。

「…分かったよ…。許すよ」

天音は、笑ってそう言った。

ぎこちない笑顔だったが、確かに笑ってみせた。

すると、ピンクはそれで満足したらしく。

「うんうん、良いよ。君からは、これで充分『優しさ』を教えてもらった」

そう言って、ピンク小人は感情の小瓶を揺らした。

奴の感情の小瓶には、ピンクの液体が、瓶の半分と少し、満たされていた。

あんだけやって、まだ折り返しを過ぎたくらいなのか。

それでも、一応…半分は。

つまり、二人の契約者のうち一人分は…契約満了したことになる。

「今までの労に免じて…君は解放してあげるよ、天音君」

めちゃくちゃ偉そうに言って、ピンク小人は天音の指輪を外した。

これで、天音は契約から解放された。

死の期限がなくなったのだ。

「そんな、僕だけ…。ナジュさんも解放してあげてよ」

顔がケーキまみれなのに、健気にナジュの解放を求める天音…だったが。

「彼はまだ駄目だよ。全然、優しくないからね。君も急いだ方が良いよ〜?早くしないと、七日目が来ちゃうよ?僕は手加減はしてあげないからね〜」

「…そうなんですか」

ナジュは、にこりと微笑んだ。

…物凄く、真っ黒な笑顔だった。

「実は僕も…手加減はしない主義なんですよ」

と、言った瞬間。

ナジュの、渾身のパンチが、ピンク小人の顔面に炸裂した。