神殺しのクロノスタシスⅣ

何があったのか、理解するのにかなりの時間を要した。

俺達は、一同ポカンとしていた。

何かとんでもないことが起こった、というのは理解出来た。

天音の顔は、潰れたフルーツやスポンジケーキ、そして大量の生クリームでベタベタ。

ピンク小人はそんな天音を見て、「してやったり」みたいな顔で、にまにまと笑っていた。

俺達は絶句である。

「げほっ…げほっ」

突然のパイ投げ、もとい…顔面ケーキを食らって。

天音は、咳き込みながら、顔についた生クリームやフルーツを、手で払っていた。

そこでようやく、まずシルナが我に返った。

「な…なんてことを…!ケーキが…ケーキで…なんてことを!」

シルナにしてみれば、あんなに綺麗だったケーキが、一瞬にして生ゴミ同然になってしまったのが許せないらしく、憤慨していた。

いや、誰だって憤慨モノだろう。

「…もぐ。美味しいよこれ」

「うん。ナジュせんせー、教師やめてもケーキ屋やっていけそう」

元暗殺者組は、どんなときでも食べ物を無駄にはしないらしく。

皿から溢れ落ちたケーキを、指で摘まんで食べていた。

この二人の、絶対に食べ物を無駄にしないという姿勢は、非常に見上げたものだ。

それに対して…このピンク小人のやることは…。

「なん…何で、こんなことするの…?」

天音が、目にこびりついた生クリームを擦りながら、かろうじて聞いた。

すると。

「え?単なる冗談だよ。面白かったでしょ?」

「…」

「それに昨日、君、優しくなかったじゃん。厳しくするのも〜とか何とか言って…。あれでちょっと気分悪くなったし…その報復?みたいな?まぁ、ちょっとした悪戯だよ」

ちょっとした…悪戯…。

「だから怒らないでね?ちゃんと許してよ。それが『優しさ』ってものだよ」

それを許すのが…「優しさ」だと…?

こいつは…こいつと来たら…。

「…そんなの…そんなの優しさなんかじゃ…。ナジュさんが…折角作ってくれたのに…!」

と、言って。

珍しく、天音が本気で語気を荒らげそうになった、その前に。

「まぁ、落ち着いてくださいよ天音さん。そんな怒らないで」

ケーキで汚れた顔に、ハンカチを差し出しながら、ナジュがそう言った。