神殺しのクロノスタシスⅣ

その日最初の、小人の我儘は。

「ケーキ食べたい」

という、この一言から始まった。

まーた出たよ。食べ物の要求。

しかもこいつの場合、

「あ、勿論手作りね。それくらいしてくれるよね」

これだからな。

買ってくるだけで済むなら、まだ良い。

いちいち手作りを要求してくるのは、「自分の為に作る」という行為が大事だからなのだろう。

それが優しさだとでも思っているのだろうが。

最悪作るのは良いとして、ちゃんと食えよ、と思う。

こいつ、作らせるだけ作らせといて、まともに食べもしないからな。

一応、余りは令月達が食べたり、生徒に配るなどして、無駄にはなっていないけど。

折角お前の為に作ってんだから、お前が食えっつーの。

「今度はケーキか…」

「良いですよ、別に。ちょっと食堂借りて…作ってきます」

ここ最近、不機嫌を隠さないナジュが、溜め息混じりに頷いた。

ナジュが料理上手なのが、せめてもの救いだよな。

「あ、じゃあ僕も手伝うよ」

「いえ、大丈夫ですから。任せてください」

「でも…」

「平気ですよ」

天音の手伝いを断り、ナジュは一人で食堂に向かった。

「…いつも悪いなぁ。色々作らせて…」

と、ちょっとしょぼんとする天音である。

「お前はその分、こいつの我儘に付き合ってるじゃないか」

「でも…料理するのって、大変でしょ?それにケーキなんて…いかにも大変そうだし…」

「そうだな。けどナジュはナジュなりに、自分に出来ることをしようとしてるんだよ、きっと」

天音だけに任せるんじゃなくて、自分も契約した以上、役に立ちたいと思ってるんだよ。

無責任に見えて、誰より責任感じる奴だからな、あいつ。

不機嫌ではあるけど、何か役に立とうとはしてるんだよ。

「そっか…。じゃあ、任せようかな…」

「あぁ、そうしろ」

少なくとも料理については、手伝いを頼まれない限り、ナジュに任せても良いと思うぞ。