神殺しのクロノスタシスⅣ

更に翌日。

契約から、五日目のこの日。

天音が、瞳に強い決意を持って、ピンク小人の前にやって来た。

今日の天音には、ただならぬ気配を感じる。

ど、どうしたんだ?

「…あのさ、小人さん」

天音は満を持して、小人に声をかけた。

が、小人はそっぽを向いてスルー。

おい聞こえてんだろ。返事しろよ。

「僕、この五日間考えたんだけど…。君は、僕達に優しさを教えて欲しいんだよね?」

「…そうだけど、それが何?」

お、返事した。

したけど、凄く面倒臭そう。

人の話くらい、真面目に聞けよ。

「君が優しくして欲しいって言うから、僕もナジュさんも、目一杯優しくしてきたよ。って言うか…甘やかしてきたよね、この五日間」

「…それが何?」

「でも僕は、それって違うんじゃないかって思うんだ」

…おっ?

「甘やかして、何でも言うこと聞いてあげて、我儘に付き合うことだけが、『優しさ』じゃない。君の思う『優しさ』は、単なる甘やかしでしかない」

…言ってやった。

とうとう、言ってやったぞ。

俺は、天音に拍手喝采を浴びせたい気分だった。

その通り。一言一句その通りだ。

シルナも、横でうんうん頷いている。

ナジュは、壁にもたれたまま無言だけれど。

あいつも、多分同じことを考えてるはずだ。

「こんな優しさは、本当の優しさじゃない。甘やかすのは優しさとは違う。君は、白雪姫に『優しさ』を教える為に、その小瓶をいっぱいにしたいんだよね?」

そういえば…そうだったな。

感情を知らない、空っぽの白雪姫に感情を教え、目覚めさせる為に。

その為に、様々な感情を集めている。はずだ。

「…」

小人は無言である。

「お姫様だからって、甘やかしばかりの優しさじゃあ、皆離れていくだけだよ。そんな我儘なお姫様は、誰からも尊敬されないし、誰にも愛してはもらえない」

その通り。

今のところ、お前の言う『優しさ』には苛立ちしか感じてないからな。

「甘やかしてばかりじゃ、優しさは学べない。時には厳しくすることだって…」

そう。それが本当の優しさというものだ。

しかし。

「…それは、君達の理屈でしょ?」

ピンクの服を着た小人は、憎ったらしい顔でそう言った。