神殺しのクロノスタシスⅣ

「その授業の内容が、難しいのに分かりやすくて、これまでにない授業だと、感銘を受けたらしいです」

…そうかもな。

あれでシルナ、分身で教師作りまくってる辺り。

人に教えるのは上手いんだよ。

こればかりは、イレースも認めざるを得ない。

普段は、菓子ばっか食ってる、通称パンダ学院長だが。

そこらの学院の教師よりは、遥かに教えるのが上手い。

「それから、訓練場で見せてもらった、最新の魔導訓練設備。あれにも感動してたそうです」

「あぁ…。うちは、一応設備だけは、いつも最新式だからな…」

教師の数は、圧倒的に少ないが(ほぼシルナ分身)。

設備だけは、いつでも最新のものを揃えている。

これでも、国内最高峰の魔導学院を自称しているのだから。

お古を使ってます、じゃ格好がつかん。

「で、そのオープンスクールを経験して、是非ともイーニシュフェルト魔導学院に入学したい、その為ならどんな努力でもする、と決意を固めて、それはそれは熱心に勉強し…」

「…」

「難色を示す母親を、父親と一緒にどうにかこうにか納得させて、まさかのイーニシュフェルト一点狙いで受験して…ようやく合格したんですよ」

「…そこまでして…」

そこまでして…イーニシュフェルト魔導学院に入りたかったのか。

「この夏休みも、母親に少しでも認めてもらいたくて、一学期しこたま勉強頑張って、かなり良い成績を取ったらしいですね。立派な成績表を持って帰省して、ちょっとは認めてくれたかな、と思ってたところに…」

「…あの、シャネオン駅の爆破事件が起きた、ってことか」

「そういうことですね」

俄然、あの爆破犯が許せなくなってきた。

一人の少女が、何とか自分の夢を母親に認めてもらおうと、努力に努力を重ねてきたのに。

あの爆破犯は、線路と一緒に、エヴェリナのささやかな願いさえ爆破しやがったのだ。

あんな事件が起きなければ、エヴェリナ母も、ここまで魔導師排斥論を拗らせたりしなかっただろうに…。

「まぁ、学院に残るとしても、仮に退学するにしても…。このままだと、母親との意見の対立が、あの親子に延々と付きまとうでしょうね」

「そうだな…」

母親は魔導師は大嫌いで、でも娘は魔導師になりたくて。

その間には、大きな溝がある。

学院に戻るとしても、戻らないとしても。

多分一生遺恨が残るだろう。

最悪、エリュティアと同じく、家族と絶縁することにもなりかねない…。

と、俺はかなり深刻に悩んでいたのだが。

「あぁ、面倒なことになってきたなぁ。早く精神世界に行って、リリスに良い子良い子して欲しいなー」

「…」

この同僚詐欺師は、何処までも呑気だった。

悩んでるこっちがアホらしくなる。