神殺しのクロノスタシスⅣ

「あー、もう駄目だ…。やめとこう。何かするのは駄目だ」

と、俺は呟いて、ただソファにもたれ掛かった。

何かをしようとすれば、必ず失敗して不幸な目に遭う。

何なら、職員室で書類仕事しようとしただけで、インクの瓶を書類の上にぶちまけ、ついでに窓から突風が入ってきて、書類を撒き散らす有様だから。

何をやっても裏目に出るなら、何もやらない方がマシ。

…なのだが。

「…わっ!?」

「は、羽久!?」

ただ、ソファにもたれていただけなのに。

突然ソファの背もたれが、ベキッ、と音を立てて壊れ。

俺は、背中から床に真っ逆さま。

ドスン、頭と背中を強打。

ついでに。

「羽久さん、だいじょ…うわっ!?」

エリュティアも、エリュティアで。

ただ俺を心配して、駆け寄ろうとしただけなのに。

突然、壁際に設置してある本棚の本が雪崩を起こし、エリュティアに直撃した。

二人して、床に沈没。

俺達は…もう、何をやっても駄目だな。

何もやらなくても駄目じゃん。

「…何だかコントみたいで、見てる分には面白いですね」

と、ナジュが他人事のようにポツリと言った。

…面白いですね、じゃねーよ。

こっちは、何も面白くないわ。

「…いい加減にしてください、この陰険小人」

とうとう、業を煮やしたクュルナが、赤い小人に食って掛かった。

そうなる気持ちは分かる。

「私を怒らせたいなら、私の身に何かして怒らせなさい。何で羽久さんを巻き込むんです」

クュルナ…ありがとうな。

しかし、赤い小人は、

「え?だって、この方が君を怒らせられるんだから、しょうがないでしょ?」

悪びれもせず、この態度。

「僕は君を怒らせるのが仕事なんだから、僕のやってることは間違ってないんだ。今だってそのお陰で、ほら。君は怒ってる」

あぁ、怒ってるな。

かつてないほどに、クュルナは怒りの炎を燃やしている。

「その調子で、どんどん怒ってよ。あー次は何をしようかな〜。空から金ダライとか落ちてきたら、面白いだろうな〜!」

そして、この挑発するような小人の態度。

クュルナでなくても腹が立つというものだ。

空から金ダライって、いつの時代だよ。

本当に起きそうだな。洒落にならんからやめろ。

相変わらずだが、この小人の舐めきった態度。

めちゃくちゃムカつくよな。

それに、青い小人も。

「もっともっと不幸な目に遭って、もっともっと悲しんでよ。悲しみっぷりが足りないよ」

何故か呆れたように、エリュティアにそんな我儘を言っている。

何だこの態度は。

「君はちゃんと悲しんで、僕に悲しみを教えるのが仕事なんだから。それすら満足に出来ないなんて、君は本当に駄目な人間だなぁ」

…こ、の、野郎…。

エリュティアを悲しませるのが目的の発言だと、分かってはいるものの。

それでも、ムカつくものはムカつく。

ふざけんなよ小人共。黙って聞いてりゃ。

「こいつら…いっぺん捕まえて、逆さに振ってやろうか。そうしたら、怒りも悲しみも分か…」

るだろう、と言ってやろうとしたら。

「あ!羽久さん、避けて!」

「え?」

天音が咄嗟に叫んだが、しかしあまりの怒りで我を忘れていた俺は、気が付かなかった。

気付いたときには、何処から現れたのか、金ダライが脳天を直撃。

ぐわんぐわんぐわん、と世界が数回回転し、そのままバタッ、と床に倒れた。

…今のは…効いたよ。

「あ、あぁぁ〜!羽久〜!しっかりして…」

シルナが駆け寄ってきたが、あまりの衝撃に、それさえ気づかなかった。

ただ、混濁した意識の中で、これだけは聞こえた。

「…本当にコントですね」

という、ナジュの呟きだけは。

コントじゃねーんだよ。ふざけんな。

と、言い返したかったが、もうそんな言葉も出てこなかった。