神殺しのクロノスタシスⅣ

…俺も、ちょっと冷静になった。

「…悪かったよ、責めるようなこと言って…」

ナジュには、ナジュなりの考えがあったんだ。

その上で、最善と思われる行動をしたのだ。

それを責めたのは、俺が悪かった。

「別に良いですよ。大体、あれだけ『退学届寄越せ!』って言ってた母親だって、僕が本当に退学届渡したとき、内心ちょっとびっくりしてましたし」

マジで?

あれだけ退学退学言っといて?

まさか、そんなにあっさり退学届をもらえるとは、思ってなかったのか。

「本物の退学届を見て、自分がやろうとしていることの現実が分かったんでしょう」

「そ、そうか…」

「本人は内心『退学したくない』の一点張り、父親は日和見、何なら母親もちょっと動揺してる。こんな状況じゃ、勢いに任せて退学届に記入したとしても、それを投函するまでには、何処かで踏み留まるでしょう」

…ナジュが心を読んで判断した読みだから、当たっているとは思うが。

切実に、そうであって欲しい。

「まぁ最悪投函されたとしても、一、二回くらいは『書類に不備あり』で送り返せば良いんですよ。そうこうしてるうちに、冷静にもなるでしょ」

…お前って奴は。

思慮深いんだか、楽観的なんだか、どっちだよ。

「強いて言うなら、どっちもですね」

心を読むな。

「それに、退学届を渡すとき、ちゃんと彼女の痛いところに、釘を差しておきましたし。余計、退学届には手を出しにくいんじゃないですか?」

「…釘…?」

って、お前何処に差したの?

そういや、退学届を手渡すとき、随分意味深なこと言ってたけど…。

あれと何か関係が?

「あー、あれですね。彼女の中で、走馬灯みたいなものが流れてたんですよ」

いち早く俺の心を読んだナジュが、そう説明した。

何だ?エヴェリナの走馬灯って。

「どうも彼女、幼い頃から魔導師に憧れていたそうですね。母親が魔導師排斥論者なのは知っていたものの、彼女の伯母…父親の姉が、魔導師だったそうで」

あ、そうなの?

成程、父親が妙に日和見だったのは、自分の姉が他ならぬ、魔導師だったからか。

となると、エヴェリナの魔導適性は、父方の家系から引き継いだのかもな。

「その伯母に憧れて、魔導師を目指し…。で、彼女が小学校高学年のとき、どうもイーニシュフェルト魔導学院のオープンスクールに参加したそうです」

「オープンスクールに…」

大抵何処の魔導師養成校でも、毎年行われているものだが。

当然、我がイーニシュフェルト魔導学院でも開催している。

今年も、丁度近々行われる予定だ。

「そのとき、僕はまだいなかったから、よく知りませんが…体験授業?みたいなのを、行ったそうですね」

「あぁ…。うちでは、毎年やってるよ」

「それに参加して、感動したみたいですよ」

そうなのか。

「授業を担当したのは、学院長だったそうですね」

「そうだな。大抵シルナがやってるよ」

書類仕事は、面倒臭がるシルナだが。

オープンスクールの体験授業なんて、シルナにとっては大好物だ。

まずは手始めとばかりに、参加者全員にチョコレートを配り。

未来の自分の生徒〜♪とばかりに、毎年うっきうきで授業を行っている。

想像つくだろ?