神殺しのクロノスタシスⅣ

「私はっ…私は嬉しいよ…!」

「あ、そう…」

「もういっそこのまま…二人共、本当に結婚したらどうかな…!?」

あんたまで、何を言い出すんだよ。

「それは遠慮しとくよ」

「そっか…!残念だなぁ…!」

何でだ。

「本ッ当、ごめんな…?シルナがアホで…」

謝罪する羽久。

あんたが悪い訳じゃないけどな。

「…でも、俺も本当に結婚してもアリだと思うよ」

前言撤回。

あんたも何言ってんだよ。アホかよ。

「じゃあ、俺は招待席から見てるよ。結婚式、頑張れよ」

「…あぁ…」

「頑張るよ〜」

ひらひらと手を振るベリクリーデ。

結婚式を頑張るって、なかなかのパワーワードた。

「あっ、ウェディングケーキ期待しててね〜!すっごく大きくて、美味しそうだから!」

羽久に引き摺られて、控え室を後にしながら。

シルナ・エインリーは、手を振りながらそう言った。

…命が懸かってること、忘れてんじゃないかってくらい呑気だな。

いや、でも…確かに、この状況でシルナ・エインリーのあの態度は、確かに不自然…なような。

そもそも、『白雪姫と七人の小人』っていう魔法道具の存在そのものが…。

これまで結婚式の準備で忙しくて、深くは考えないようにしていたが…。

どうにも、気にかかる…。

「ジュリス、これ見て。ブーケって言うんだって。これをねー、ぶん投げるんだって、空高くまで」

考え込みそうになったところを、ベリクリーデのアホな発言で、現実に引き戻された。

おい。こいつにブーケトスの説明をしたのは誰だ?

危うく、ブーケが成層圏を越え、大気圏を突破してから地上に戻ってくるところだった。

いや、その前に燃え尽きるけども。

「アホか。砲丸投げじゃないんだよ。軽く、ポーンと投げるだけで良い」

誰もキャッチ出来ないだろうが。

良いか、今回の結婚式は、とにかく見栄えが大事なんだからな。

オレンジ小人を満足させるような、メルヘンでロマンチックな結婚式が。

ブーケトスが大気圏離脱なんて、洒落にならん。

俺は慌てて、ベリクリーデにブーケトスのやり方を、改めて教えることにした。

そのときには既に、『白雪姫と七人の小人』についての疑問は、頭の中から抜けていた。