神殺しのクロノスタシスⅣ

今回の結婚式に当たって、衣装を貸してくれたのは、このルシェリート夫妻である。

シュニィとベリクリーデはともかく、俺とアトラスではサイズが合わないので、若干手直しさせてもらったが。

まさかこのタキシードも、偽装結婚式の為に使われることになるとは、思ってなかっただろうなぁ。

「とても素敵ですよ、ジュリスさん」

「そりゃどーも…」

そういうことは、お宅の旦那に言ってやってくれ。

俺に言われても、誰得でしかない。

しかも、シュニィまで。

「いっそ、このまま本当に結婚されたらどうですか?」

にこりと微笑んで、とんでもないことを提案する。

下世話にも程があるぞ。

「冗談じゃねぇよ」

「そうですか?…案外、皆さん納得すると思いますけど…」

俺が一番納得しねぇよ。

勝手に外堀を埋めてくるんじゃねぇ。

「それで?そんなことより、ベリクリーデはどうしてる?」

結婚式の主役は、何と言っても新婦だ。

新郎なんて、お飾り的存在でしかない。

あのオレンジ小人だって、白雪姫ならぬ、ベリクリーデ姫のドレスアップに期待してるんだろうし。

…あいつは姫と呼ぶには、いささか淑やかさに欠けまくってるが。

「はい。さっきまでベリクリーデさんの控え室にいたんですが…もう、ほとんど準備は終わってますよ」

そうかい。

そりゃ良かった。

「招待客の皆さんも、会場に集まってますし…。あとはいよいよ、式を挙げるだけですね」

「…あ、そ…」

そんな微笑ましそうに言うなよ。

これが本物の結婚式ならめでたいが、そうじゃないんだからな。

憂鬱だ。憂鬱過ぎる。

「ジュリスさん、気持ちは分かりますが」

何の気持ちだよ?

幸せいっぱいの結婚式を挙げたお前達に、今の俺の気持ちが分かるか?

「でも、今日ばかりは、ベリクリーデさんを本当の花嫁だと思って接してください。さもないと…二回目は、今日よりももっと厳しくなります」

「…あぁ、そうだな」

真面目な話。

今日失敗して、例えギリギリ間に合って、期限内に二回目の結婚式を開けたとしても。

一度失敗している以上、オレンジ小人の目は厳しくなるだろうし。

俺達も追い詰められている分、余計緊張して、幸せな結婚式を演じるどころじゃなくなる。

まぁ、どっちにしても偽装結婚には変わりないので、幸せな結婚式は有り得ないんだが。

「それに、ベリクリーデさんは元々…あまり、演技派とは言えませんし…」

良くも悪くも、自分の欲求に素直過ぎるもんな。あいつは。

演技力なんて、欠片ほども期待する方が間違ってる。

「ジュリスさんが、上手く誘導してください」

「…分かってるよ…」

今日の結婚式が上手く行くかは、俺の両肩に懸かっていると言っても過言じゃないな。

全く、責任重大過ぎるだろ。

…何でこんなことになったんだかなぁ。

泣けてくる。

「皆でサポートするので…頑張ってください、ジュリスさん」

「…あぁ」

しかしこうなったら、もうやるしかない。

これも生き残る為だ。

だったら、死物狂いでやるしかないだろう。