神殺しのクロノスタシスⅣ

「仕方ないでしょう天音さん。イレースさんが契約済みの今、もうイーニシュフェルト組には野郎しかいないんですから。結婚式をするには、誰かが女装するしかないんですよ」

「う、うぅ…。それは分かってるけど…」

「例え私がフリーだったとしても、あなた方の誰かと結婚式なんて、絶対に御免ですけどね。学院長とかが相手だったら最悪です」

イレースが吐き捨てるように言った。

シルナ、とばっちりでは?

「覚悟を決めましょう天音さん。今こそ、男気を見せるときです」

「そ…そう言うなら、ナジュさんでも良いんじゃないの?女顔なんだし」

天音、反撃に出る。

が。

「えぇ。僕がやっても良いんですけど」

良いのかよ。

「でも僕は前世からの兼ね合いで、溢れる男性フェロモンのせいで、どうしても女性役は出来ないんですよ」

何だそれは。

どういう前世を送ったんだ?お前は。

「だから、天音さんが女装して新婦をやり、僕が新郎をやる。これで解決ですよ」

「な、何も解決しないよ」

すると、白けた様子でナジュと天音を眺めていたオレンジ小人が、口を開いた。

とても不満そうに。

「あのさー…。僕、男が女装するところなんて、見たくないんだけど。全然ロマンチックでも何でもないじゃない」

「そこを何とか。大丈夫ですって、天音さんなら、着飾れば絶対美少女になれる…そんな素養を持ってる人です」

「そう言われても僕、全然嬉しくないからね!」

…えーっと。

とりあえず、状況を説明して欲しいんだが…。

誰か、解説頼めないだろうか。

すると。

「あのね、あのオレンジ小人。『喜び』の感情を教えてくれって言って、出てきたんだけど…その条件が…」

「喜びと言えば、何と言っても結婚式でしょ!とか言い出してさ〜。喜びいっぱい、幸せいっぱいの結婚式が見たいんだってさ〜」

令月とすぐりの二人が、解説役を務めてくれた。

成程、そういうことだったのか。

喜びの感情…。その為に結婚式…。

…って、何でそうなるんだよ。

結婚式に限らず、喜びなら色々あるだろ。

「あ、白雪姫だからかな?王子様との結婚は、メルヘンストーリーなら定番だよね」

と、シルナが言った。

あぁ、そういうことか…。

こんな下らないところで、白雪姫要素を出してくるんじゃない。

「ったく惜しいことをしたなぁ。俺が契約済みじゃなかったら、すぐにツキナを呼んでくるところだったのに…」

すぐりが、何やらぼそぼそ呟いているが。

今は、それどころではない。

「大体、性別で区別するのはおかしくないですか?男同士でも、幸せな結婚式を挙げてる人はいますよ」

妙な点でジェンダーフリーなナジュである。

しかし、あくまで古風でメルヘンな展開を望む、白雪姫の小人は。

「そうじゃないんだよなー…。僕か望んでるのは、ちゃんと白いタキシードに白いウェディングドレスで…。大きなウェディングケーキがあって、素敵な教会でウェディングベルを鳴らして…」

注文が多い。

これまでの小人も大概だったが、こいつも相当我儘だぞ。

自分の中で、「理想の結婚式」の型がきっちり決まっている。

その通りに行われないと、こいつは喜びを感じない。小瓶がいっぱいになることはない。

なんて厄介なんだ。