「…は?何言って…」

これには、小人も予想外だったらしく、ポカンとしていた。

「だからー、君が馬鹿だなって。そんな言い方で、そんなやり方で、俺が『八千代』に嫉妬すると思ってるなら…君って、物凄く浅はかだよね」

「あ、浅はかって…」

「まぁ、昔の俺だったら超効いてたかも。それは認めるよ。でもねー、今は無理だね。全然効かない。全く心に響かないんだよ。だから何?って感じ」

…すぐり…。

「『八千代』の方が優れてる?知ってるよそんなこと。今更それがどうかしたの?」

…いや。

それは、お前の思い込みだと思うぞ。

「最初からそうだったんだよ。今更教えられる必要もない。『八千代』が豪華な高級食材や、万札の束や宝石の山を持ってるのは知ってる。対する俺は、ずっとカビたパンと、百円玉と、おはじきを一枚持って生きてきた。…で?それの何が悪いの?」

「な、何がって…」

「俺はそれで生きてきたんだよ。頭領に認められようが、認められまいが、俺は俺だから。魔導適性の有無が、どうかした?そんなもの抜きにしても、俺は『八千代』にないものを持ってるし、『八千代』とは違う人間なんだ。どんなに憧れててもね」

…すぐり、お前…。

お前から、まさか、そんな言葉を聞ける日が来るなんて…。

「確かに俺は『八千代』が羨ましい。俺にないものを持ってて、良いなぁと思う。でも嫉妬はしてない。憧れてはいるけど、だからって俺は、『八千代』になりたいとは思わない」

羨ましい。憧れてる。

でも、それは嫉妬じゃない。

僻んではいない。妬んでもいない。

相手の良いところを認めた上で、しかし自分は自分だと納得している。

自分には自分の長所があると、ちゃんと分かっているから。

そして。

「…僕に魔導適性を与えたって、『八千歳』を羨ましがられるものなんて、僕にはないよ」

すぐりのみならず、令月もそう言った。

「な、何で…」

「何で?そんなの僕が聞きたい。何でこんなことで、『八千歳』が僕に嫉妬なんかすると思うの?」

こんなこと。

魔導適性を与えられてなお、こんなことと言ってのけるとは。

「嫉妬するとしたら、それは僕の方だよ。『八千歳』が何を持ってると思ってるの?僕にないものを、いくつ持ってると思ってるの」

…そうだな。

令月は、昔からずっとそう言ってたっけ。

すぐりは、自分にないものをたくさん持ってて羨ましい、と。