神殺しのクロノスタシスⅣ

「令月君。君の中には劣等感がある。その劣等感の正体は何か?魔導適性だ。そうだよね?」

「…」

…こいつ…。

この、クソ小人…。

「令月君は嫉妬される側にならなきゃいけないのに、嫉妬する側のすぐり君に、劣等感を抱いていちゃいけない」

「…」

「だから、君に魔導適性をあげる。ろくな魔法しか使えないのが、君の劣等感だったんだろう?もうそんな気持ちを抱く必要はないんだよ」

小人は、にやにやと嬉しそうに笑った。

最高にムカつく笑顔だ。

「君の望むものをあげたよ。魔導適性。これで君は、もうすぐり君なんかに劣等感を抱く必要はない。君だって、もう魔法が使えるんだからね」

すぐり「なんか」って、何だよ。

こいつが、令月とすぐりの何を知ってるって言うんだ。

この二人が抱えているものの、何を…。

「魔法…。使えるの?僕が…」

初めて、令月が口を開いた。

「うん、使えるよ」

「何でも使えるの?炎魔法でも、風魔法でも…」

「勿論!これで、君がすぐり君に劣っているところは、何一つなくなったんだ。嬉しいね!」

…。

それは…でも、令月にとっては…。

更に。

このド畜生小人は、すぐりの心にナイフを突き立てるようなことを言った。

「対するすぐり君。君はこれで、令月君に勝ってるところが、何一つなくなったね」

イレースじゃないが。

俺は、この小人を殴りたくなる衝動を、必死に堪えなければならなかった。

「…非常にムカつきますね。殴って良いでしょうか」

「い、イレースさん…。何とか、抑えて…」

イレースと天音が、ボソボソ呟いていた。

イレース。その気持ちはよく分かる。

しかし、小人の舌鋒は止まらない。

「それだけが、唯一の取り柄だったもんね〜。他の全てに劣ってても、自分は魔導適性があるから、って思い込んで、何とか自分を慰めてたんでしょ?」

「…」

挑発するように言われても、すぐりは答えない。

ただ、無言で小人を見つめている。

「でも、令月君にも魔導適性が備わったら…君の長所なんて、何一つなくなる。完全に、令月君の下位互換に成り下がったね!」

イレース。

やっぱりぶん殴って良いと思うわ。俺。

何が、誰が令月の下位互換だって?

脳みそも目玉も腐ってるのか。この小人。

何を馬鹿なことを、と俺は思うけれど。

しかしそのとき、初めて。

黄色小人の、嫉妬の小瓶の中に。

黄色い液体が、じわじわと溜まり始めていた。