神殺しのクロノスタシスⅣ

…一つ言っとくけどさ。

何となく分かってるとは思うけどさ。

この実技授業って、はったりだから。

マジでファラリスしてる訳でも、マジでメイデンしてる訳でもないから。

雄牛を燃やしているあの炎は、シルナが幻覚魔法を使って、燃えているように見せているだけ。

アイアン・メイデンの内側に仕込まれたトゲも、実はシリコン製なので、身体に当たってもふにゃっ、と曲がるだけ。

だから、中で呻き声をあげている二人は、役者さながら、苦しんでいる声を絞り出しているだけだ。

天音もすぐりも、そうと分かってて合わせてるの。

これがド素人の呻き声だったら、バレるだろうけど。

二人共、声優になれそうなくらい上手いので。

今のところ全然疑われていない。

小人はがくがく震えながら、小瓶の恐怖ゲージを増やしていた。

そろそろいっぱいになりそうで、一安心。

「では…残りの皆さんには、これから画用紙を配ります」

来た。

イレース、鬼教官の最骨頂。

「が、画用紙…ですか?」

「えぇ。残りの皆さんには、この拷問の様子をスケッチしてもらいます。全員がちゃんと描き終えるまで…拷問を終わらせることは出来ませんから。精々、急いで描くことですね」

はったりだと分かっていても、やっぱり鬼教官は鬼教官だわ。

この間ずっと、喉痛くなりそうな声を出し続けなければならない、演技してる二人が気の毒。

しかも。

「まずは正面から、次に左右それぞれ、計三枚描いてもらうので宜しくお願いします」

そんなじっくりスケッチするものではない。

「あ…あの…」

ここで。

ようやく恐れを成したか、小人がそろそろと口を開けた。

「何です?」

「こ、これが恐怖だね?分かったよ…。き、今日はここまでにしようよ」

ほう?

このままでは瓶がいっぱいになると判断したのか、この場での一時撤退を申し出た。

しかし、そんな甘い考えが、鬼教官に通用するはずがない。

返ってきた返事は、イレースのビンタであった。

思いっきり張り飛ばした挙げ句、小人の胸ぐらを掴み上げる。

「何を言ってるんです…?授業はまだ終わってないんですよ?最後まで受けてもらわないと困りますね」

「ひ、ひぃぃ…」

ここで、小瓶恐怖ゲージがマックスに達した。

よし、来た。勝った。

イレースの指に嵌められていた茨の指輪が、するすると音を立てて、霧のように消えた。

…が。

「スケッチが終わったら、今度は拷問役の交代です。一人ずつ、二つの拷問具に耐えてもらいますからね…。勿論、あなたもです」

「ひ、ひぃぃぃ」

「ひぃじゃないんですよ。恐怖を知りたいんでしょう?…教えてあげますよ。この私に、舐めた口を利いた代償が何か。痛みを以て、よく学習すると良いでしょう」

…あの、イレースさん?

ノリノリなところ悪いんだけど、もう終わりです。