神殺しのクロノスタシスⅣ

火をつけて、しばらくすると。

「う…。うぅ…ぐ…ぐぅあ…ひぐっ…ぅ、あぁぎぐえぅ…」

鶏の首を絞めた声、とは多分このことだろう。

牛の口から、くぐもった呻き声が聞こえ始めた。

すげー声出してんな。怖いんだけど。

夜中にこんな声が聞こえてきたら、確実に卒倒するな。

その声に、シルナも天音も青ざめていた。

ついでに小人も死ぬほどビビっているようで、小瓶の中身が凄い勢いで増えている。

そして、拍車をかけるように。

「うぐ…ぐ、ぎぐぇがぐあがぁ、ぐぎ、ぐががぎがごぇぎぎ…」

ナジュの唸り声が、ヤバい感じになってきた。

お前、どっからその声出してんの?

喉傷めてないか心配になる。

「だ…大丈夫なの!?イレースちゃん!」

シルナが、半泣きで叫んだ。

「何がです?」

「だ、だってこのままじゃ…このままじゃナジュ君が死んじゃうよ!」

「別に構いません」

ひでぇ。

「これは拷問なのだから、死ぬギリギリまで追い詰める必要があります。こんなものは序の口。まだまだこれからです」

鬼だ。本物の鬼教官だ。

血も涙もない。

「で、でもこのままだと…!」

天音が、声を上げようとしたが。

「教官は私です。私が全てを決定するんです。異議があるなら…あなたも、体験してみたいですか?」

「い、い、いいえ…」

天音ガクブル。

逆らうな。逆らったら生贄にされるぞ。

それどころか。

「次はアイアン・メイデンの実技です。被験者は…そうですね」

イレースは、舐め回すようにこちらを見て。

「…黒月令月さん。あなたです」

白羽の矢が立ったのは、令月だった。

「僕?何したら良いの」

「アイアン・メイデンの中に入ってもらいます」

「分かった」

そこはもうちょっと躊躇えよ。

令月は、てくてくと教室の前にやって来て、アイアン・メイデンの中にすぽっ、と入った。

両手両足を縛り付けられ、イレースの手によって、観音開きの扉がゆっくりと閉められる。

扉が閉まり、令月の顔が見えなくなったそのとき。

身体にトゲが刺さった令月の、苦しげな叫び声が聞こえてきた。

「う…うがぁぁぁ!い、いぐっ、だ、あああぁ!!」

これまた、どっから声出してんだと思うほどの、痛ましい声である。

「うぎゃぁ“ぁ“ぁ“!助けでぇ“ぇ“ぇ“!!」

と、いう令月の、断末魔の叫びに。

「せっ…イレースせんせー!もうやめてあげてよ!」

「そ、そうだよ!実技なら、もう充分だよ!二人を出してあげて!」

すぐりと天音が、揃って声をあげた。

イレースに慈悲を求めたのである。

しかし。

「いつ助けるのか…そもそも助ける必要があるのか…。それを決めるのは、あなた達ではありません。…この私です」

鬼教官イレースに、慈悲を求めるなど…砂漠のど真ん中で雨を願うのと同じことだった。