神殺しのクロノスタシスⅣ

それでも、イレースの授業は続く。

小人に、恐怖を教える為に。

「みみみ、三つ目は、虫責め。身体に大量の虫を這わせたり、身体に蜂蜜を塗って木に縛り付けて…虫に集らせる…」

「声!」

「よっ!四つ目は、専用の拷問具による拷問。爪剥ぎや、鉄帽子を被らせる。粉砕機で膝や踵、頭部を粉砕したり…うげぇぇ」

気持ちは分かる。

もうな、この、写真で吐きそうだもん。

怖いとか通り越して、おぞましい。

しかしイレース先生は、容赦はしてくれない。

「まともに読むことも出来ないんですか。このボンクラ!」

再び、脳天に拳骨。

これはこれで、ある種の拷問だよなぁ。

拳骨一発では済まず、往復ビンタを繰り出す。

あれは痛ぇわ。

容赦なさ過ぎるわ。

同情はしないけどな。

「もう良いです。まともに読むことも出来ないなら、代わりに実物をお見せしましょう」

「じ、実物…?」

声が裏返っている小人。

瓶の中は、黒い液体が半分まで溜まっている。

そしてその中身は、刻一刻と増え続けている。

「天音さん。例のものを持ってきてください」

「は、はいっ!!」

自分もビンタを食らうと思ったのか、キビキビと返事をして立ち上がり。

教室の奥に用意していたものを、ガラガラと台車に乗せて持ってくる天音。

大丈夫だ天音。お前は殴られないから。

「こ、これで良いでしょうか…」

「えぇ、宜しい。着席しなさい」

「はいっ」

イレースは、台車に被せられた布を剥ぎ取った。

すると、そこには。

「ご紹介しましょう。我が学院にある拷問具、ファラリスの雄牛です」

…いや、まぁ、あったけどさ。

元々うちの学院、何故かこんなエグい拷問具、あったけどさ。

まさか、ここに来てこんな風に役立つとは、思ってなかったよ。

これまで何度も話題に出ていたこともあって、俺達は特に驚きもしなかったが。

初めて実物を見る小人は、口をあんぐり開け、目を見開いて固まっていた。

誰しも本物の拷問具を見れば、そうなる。

「そして、今回…魔導教育委員会からもらった奨励金の余りで買った新入り…」

イレースは、もう一台の台車に被せた布を払い去った。

すると、そこに鎮座していたのは、

「ナジュさん。質問です」

「はい、何でしょうかイレース鬼教官」

おい。ビンタされるぞ。

「これは何と言う拷問具でしょう?」

「鉄の処女。アイアン・メイデンですね」

我がイーニシュフェルト魔導学院に、新たに仲間入りした拷問具第二弾。

鉄の処女、アイアン・メイデンである。

まさか魔導教育委員会の人も、奨励金(の、あまり)で、こんなものを購入しているとは思ってないだろうなぁ。

来年からなくなるかも。奨励金。