神殺しのクロノスタシスⅣ

「このように現代でも、国や、所属する組織によっては、まだまだ拷問は現役です」

教員イレースが、黒板にさらさらと拷問の歴史を書いていた。

恐ろしい授業だよ。

余裕綽々だった小人も、今では真顔だ。

よく見ると、小人が机の上に置いている、小さな小瓶。

空っぽだったはずの小瓶に、黒い液体らしきものが溜まってきている。

何だあれ。

少し考えて、ピンと来た。

あれは、恐怖ゲージだ。

小人は少しずつ、イレースの授業の成果で、恐怖を学習し始めている。

あれがいっぱいになれば、小人の試練を突破したことになるのだろう。

良い調子だぞ、イレース。頑張れ。

「さてここからは、様々な拷問の種類を紹介していくとしましょう。今から冊子を配るので、これを見ながら授業を進めます」

そう言って。

イレースは、昨日作成したレジュメを一人一人に配った。

これ、俺達が昨日手伝ったレジュメだ。

だから、その中身は知っているはずなのだが…。

「…うげ」

思わず、目を背けずにはいられなかった。

だって、このレジュメ。

ペラペラ捲るだけで、気が遠くなりそう。

様々な拷問道具の写真、拷問を受けている様子の写真、イラストなどが。

ご丁寧に、フルカラーで印刷されている。

これはエグい。

「それでは、小人さん」

「…」

イレースに呼ばれたが、小人は手元のレジュメにドン引きしていて、返事をするどころではなかった。

が、それが悪かった。

バチンッ!と、ビンタ三発目。

再び、小人が椅子からふっ飛ばされた。

相変わらず容赦がねぇ。

それどころか、

「教師の指示に従わないとは、何様のつもりです?」

小人を足蹴にして、凍りそうなほど冷たい目で見下ろす。

これはやべぇよ。鬼教官だ鬼教官。

「ひ、ひぃっ…」

「ひいじゃないんですよ。さっさと席について、そして1ページ目から音読!」

「は、はい…」

「声が小さい!」

「はいっ!」

よし、その調子で行け。

よろよろと席に戻った小人は、レジュメを読み始めた。

「ひ、一つ目は、鞭打ち拷問。古来から行われてきた、歴史の古い拷問で…公開で行われることが多い。トゲがついた鞭や、革で出来た鞭等で、特定回数殴る。き、傷痕が残りやすくて、皮膚が裂けて血が噴き出…うぇっ」

気持ちは分かる。

「さっさと続きを読む!」

が、容赦はしてくれないイレース先生。

「ふ、二つ目は火責め。これも古来から行われている拷問で、煮えたお湯や油の中に突き落としたり…。身体の一部を火で燃やしたり…。焼きゴテを身体に押し付けて、皮膚に消えない烙印をつけ…おぇっ」

気持ちは分かる。

「続き!それと、声が小さい!」

が、容赦のない舌鋒を飛ばすイレース先生。

ちなみにこの間シルナは、必死にレジュメから目を逸らして、ガタガタ震えている。

それも仕方ない。

読んでいるこのレジュメ、文字だけではない。

ご丁寧に、鞭打ちや火責めの拷問写真、焼きゴテを押されて皮膚の爛れた写真が、やはりフルカラーで印刷されている。

これは、目を逸らしたくなるのも分かるよ。

平気で見ているのは、例の三人だけだ。