「あぁ、そうだ。一応聞いておきますが」

と、イレースが前置き。

「何かな?」

「私があなたに恐怖を与えるに至って、あなたにはこれから、少し言うことを聞いてもらわなければなりません」

…確かに。

恐怖の授業を行うに当たって、こちらのルールには従ってもらわなければ。

そもそも、授業が成立しなくなってしまう。

「拒否されると、そもそも恐怖を与えるどころじゃなくなります」

「ふ~ん…?何を考えてるんだか知らないけど」

それはこっちの台詞だ。

「ま、何でも良いよ。言うことも聞いてあげる。あ、指輪を外せっていうのは無理だからね?」

完全にこっちを舐め腐ってるな。

この態度、最高にムカつく。

「えぇ、分かってますよ。授業の間だけ、言うことを聞いてもらえれば結構です」

「何をやれば良いのかな?」

「簡単なことですよ。私が教師で、あなたは生徒。…それを、頭に刻んでください」

イレースが行うのは、恐怖を教える授業だ。

教師と生徒の役割分担だけ、きちんと分けておけば良い。

「よーし、良いよ。分かった」

黒い服の小人は、にやにやしながら頷いた。

やれるもんならやってみろ、と言わんばかり。

「授業をしたいんだね?良いよ、聞いてあげるよ。この先生は一体、僕にどんなことを教えてくれるのかな〜」

と、小人は余裕の表情。

やっぱりムカつくわ。

俺今、今年一番ムカついてる。

シルナがチョコを貪りながら、鼻歌歌って盆踊りとか踊ってる様を見ても、こんなにはムカつかないだろうに。

「羽久が私に…失礼なことを考えてる気がするけど…。今はそれどころじゃないから、良いや…」

「あぁ、そうだな」

今は、それどころじゃない。

イレースが生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。

「何でもやってみなよ。それで、僕に恐怖を教えることが出来るならね」

にやにやと、ムカつく笑顔の小人。

お前のせいで、白雪姫嫌いになりそうだよ。

「まー、教師とは言っても、こんな小娘だからね。僕に恐怖を教えるなんて出来るはずがない。僕はね、生まれてこの方、恐怖を覚えた試しがないんだ。だからこの瓶も空っぽ、」

「…言いましたね?」

「…は?」

…イレースの、眼光が。

「言いましたね?私の言うことを聞くと。私の生徒になると」

「え?それは…うん」

ギラリ、と鋭く光った。

「宜しい。では、まず…生徒としての立場というものを、思い知らせてあげましょう」

「生徒の立場?何それ?訳分からな、」

と、言った瞬間。

小人の脳天に、イレースの特大な拳骨がめり込んだ。

…。

…始まってしまった。