落ち着いて、状況を冷静に分析しよう。

謎の棺桶を開けてみると、中には生きているのかと見紛うほどに精巧な、少女の人形が眠っていて。

これは何ぞやと確かめていたら、いきなり棺桶の中から、少女のものではない、小さな腕がにゅっと伸びてきて。

その腕が、イレースの袖を掴んだ。

かと思ったら、棺桶から蔦のような、棘のある茨が伸びてイレースの腕を絡み付き。

今、その茨が、指輪のような形に姿を変え、イレースの左手の小指に嵌っている。

…状況が目まぐるしく変化し過ぎて、ついていけないよ。

「…指輪?何それ?」

「茨の指輪って、それ痛くないの?」

さすがは、元暗殺者。

令月とすぐりは、こんなときでも静かだった。

「痛くはないですね、全く」

そしてこれまた、全く動じないイレースである。

「…それが呪いなんですか?」

と、首を傾げるナジュ。

意外と冷静な奴多いな。この学院。

「あわわ。あわわわわわわわ…」

見ろよ、このシルナ。

学院長の癖に、誰よりも狼狽えている。

「お、落ち着け…。落ち着こう…大丈夫…大丈夫…よし」

天音でさえ、必死に冷静さを取り戻そうと、深呼吸しているくらいの余裕はあるのに。

そういえば、俺も割と冷静だな。

人間、あまりに予想だにしない状況に陥ると、逆に頭がクールになるということなのかもしれない。

「イレース…。何なんだ、その指輪…」

って言うか、イレースを掴んでたさっきの小さな手って。

と、思ったそのとき。

「その指輪は、僕の感情の小瓶を満たしてくれる契約者の証なんだよ!」

!?

棺桶の中から、ピエロみたいに陽気な甲高い声がした。

「ぷぎゃぁぁぁっ!?」

この悲鳴は、勿論シルナである。

俺も死ぬほどびっくりしたけど、悲鳴は出なかった。

もう驚くことのオンパレードで、むしろ声が出ないよ。