「ヤバいヤバいヤバい!離れてイレースちゃん!イレースちゃんが連れてかれちゃう!助けてーっ!今っ、今助け…イレースちゃんから離れなさい!」

杖をぶんぶん振り回し、半泣きで喚き散らすシルナ。

いつもならうるせぇと思うところだが、俺も驚き過ぎて、それどころではなかった。

イレースの袖を掴んでるこの手は、誰の手だ?

少女の手ではない。少女の手は、胸の前で小瓶を握っている。

だからこの手は、少女のものじゃない。少女以外の人物が、この棺の中にいたのだ。

そしてそいつは、生きている。

生きて、イレースの袖口を掴んでいるのだ。

突然のホラー展開。

「…何ですか?」

イレースは、いきなり知らない人物に袖を掴まれたにも関わらず、冷静にこの一言。

イレースの口から、驚きの悲鳴があがるのを一度でも聞いてみたいものだ。

よくこの状況で、冷静に口を利けるものだ。

更に、この状況でも冷静なのがもう一人。

イレースの袖を掴むその腕を、逆に、ガシッと掴み返す者がいた。

ナジュである。

「何なんですかね?誰でも良いですけど、呪うなら僕にしてくださいね」

イケメンか。

いやしかし、こんなの、もう呪いとかそういう次元の話じゃ、

「!?」

そのとき。

棺桶の中から、茨のようなものがにゅるにゅると生え。

それが、掴まれていたイレースの腕に、絡みつき始めた。

な…。

何事だ、これは?

「…!」

ナジュが、咄嗟に風魔法の刃で茨を切断するも。

切断面は一瞬でくっつき、何事もなかったようにイレースの腕全体に絡みついた。

かと思ったら。

茨はしゅるしゅると形を変え、一つの小さな指輪のようにまとまって。

これまた指輪のように、イレースの小指に巻き付いた。

…沈黙。

…何が起きたんだ?今。