神殺しのクロノスタシスⅣ

棺の、中には。

少女が入っていた。

言っておくが、ミイラではない。

肌艶の良い、まるで眠っているだけのように見える少女が。

組んだ両手に、小さな空の小瓶を握ったまま、棺桶の中に横たわっていた。

…。

…誰?

「…えっと…」

これには、一同言葉も見つからない。

かろうじて声を発したのは、令月だった。

きょとんと首を傾げて、一言。

「…学院長の隠れた趣味?」

もしそうだとしたら、俺は今後のシルナとの付き合いを考えさせてもらう。

こんないたいけな少女を、棺桶に入れて愛でる趣味があったなんて。

しかし。

「そっ…そんな訳ないでしょ!?どういう勘違い!?」

良かった。どうやら違うらしい。

「ど、どうなってるの?この子誰?死んでるの!?」

「やけに軽かったはずなんですが…。人間なんですかね?」

「ちょ、と、とりあえず回復魔法を…」

と、咄嗟に杖を取り出したシルナだったが。

いざ回復魔法をかけてみると。

「あ、あれ?通じない…?」

シルナの回復魔法が通じない。

それはつまり…。

「…ちょっと、よく見てください、これ」

イレースが、勇敢にも棺桶の中に手を突っ込み。

少女の腕を握って、ぐいっと持ち上げた。

お、おい大丈夫なのか?

腕を持ち上げられても、少女は目を開けない。

少女の瞼は固く閉じられたままだ。

「見ろって…何を?」

「肩のところ。これ、球体関節じゃないですか」

あ、本当だ。

言われてみれば。

「確かに。膝も球体関節ですよ」

ナジュが、ぺらっとスカートを軽く捲って、膝の部分を確かめていた。

おい。人間相手ではないとはいえ、軽々しく少女のスカートを捲るな。

「無機物なんだからどうでも良いでしょ」

そういう問題ではない。

「ってことは、これ…」

「なーんだ…。ただの人形かぁ」

すぐりが、ちょっと残念そうに言った。

何で残念なんだよ。人間じゃなくて良かったじゃないか。

園芸部の畑から出土した、謎の白い棺桶に入っていたのは。

遺体でもミイラでも骨でもなく、妙に綺麗な少女の人形であった。

…って、こんなこと、ある?