神殺しのクロノスタシスⅣ

その日の夜。




「シュニィちゃんから、連絡があったよ」

二人きりになった深夜の学院長室で、シルナはそう切り出した。

「何の?」

「ミルツちゃんの処遇について」

…あぁ。

それについては、穏やかではいられないな。

特に、明朝出発する珠蓮にとっては。

「彼女は、国内の魔導師排斥論者をけしかけて『サンクチュアリ』を扇動し、国内の治安を乱し、聖魔騎士団魔導部隊の大隊長を罠にかけた」

考えてみると、結構ヤバいことしてるよな。

それ以上に、賢者の石の封印を解くというヤバいことをしているが…。

「でも…賢者の石については、裁かれないみたいだ」

「何?」

「賢者の石の封印について、公式に明らかにする訳にはいかない。だから、吐月君達を罠に嵌めたことも…単に、『聖魔騎士団の強制立ち入りを拒否、抵抗した公務執行妨害罪』のみを問われて、それ以上の罪は課せられないそうだよ」

…それは…。

それなら、いくら余罪が…『サンクチュアリ』を扇動して国内の治安を乱した罪…を足しても。

恐らく、十年以上刑務所に入れられることはない。

それどころか、その半分以下で済むのでは?

「それに、ミルツちゃんのやり方は問題があったけど、言い分は間違ったことは言ってないから、って。充分情状酌量の余地はあるし、こういう分野に得手な弁護士さんをつけてもらうらしい」

なら、もっと刑期は短くなる可能性もあるな。

本人がそれを望むかは分からないが。

師弟揃ってクソ真面目だもんな。「容赦せず、きちんと裁いて欲しい」とか言いそうだもん。

「それ…シュニィの采配か?」

「いいや?『聖魔騎士団魔導部隊隊長として、公平な判断を下しただけです』って」

やっぱりシュニィの采配なんじゃないか。

でも、シュニィは絶対、自分が忖度したとは言わないだろうな。

あいつもあいつで、真面目だしなぁ。

「アトラスはそれで納得してんの?」

シュニィを魔女呼ばわりされたと、随分お冠だったが。

「あぁ、それね…。実はそれ、ミルツちゃんじゃなくて、他の『サンクチュアリ』のメンバーが、シュニィちゃんを魔女だって罵ってたみたいで…」

え。

「取り調べの最中に、シュニィちゃんを『詐欺師』だとか、『魔女』って口走って、それを聞いたアトラス君が暴れて…そりゃもう大変だったそうだよ」

…マジかよ…。

本当に大変だったろうな。

生きてる?その取り調べ受けてた『サンクチュアリ』の人。

「何とかシュニィちゃんが間に入って宥めたらしいけど…。まだまだ怒ってるみたいで、手がつけられないってシュニィちゃんが嘆いてた」

そりゃ嘆くわ。

愛妻家も、度を過ぎると災厄と化すな。

「ともあれ…珠蓮君には、良い報告が出来そうだね」

「そうだな」

ミルツの処遇について、珠蓮は口には出さないものの、心配しているだろうから。

ルーデュニアを出る前に、ある程度教えてやれるのは有り難いことだ。

良い土産になるだろう。珠蓮にとっては。

「あとは…賢者の石の、最後の欠片だけ見つかれば、心置きなく珠蓮を送り出せるんだが…」

「…それは、これのことか?」

「!?」







俺とシルナではない、第三者の声と気配に気づき。

俺も、シルナも、愕然として振り向いた。

すると、そこにいたのは。