神殺しのクロノスタシスⅣ

「賢者の石が脅威なのは、その使い方を知っている者の手に渡ったときだけだ」

と、珠蓮は言った。

使い方を知っている者…と言えば。

「珠蓮…お前と、それからミルツだけか…」

「そうだ。他の者が賢者の石を所持したところで、それは宝の持ち腐れだ」

まぁ、確かに言われてみればそうだよな。

兵器というのは、その扱い方を知っているから脅威になるのであって。

いくら子供が戦車を盗んでも、動かし方が分からないんじゃ、ただの鉄屑だ。

それと同じで、使い方が分かっていなければ、賢者の石と言えど、ただの石ころ。

そう思えば、少しは気が楽にもなるが…。

「だからって、一生欠けたままって訳にもいかないだろう?」 

「そうだな。残りの欠片も揃えなければ。…でも、それはお前達が心配することじゃない」

「…何?」

「賢者の石の最後の欠片は、俺が一人で探そう。これ以上、お前達の手を煩わせるのは忍びない」

…。

…珠蓮…。

「別に急ぐ必要はない。いずれ見つかればそれで良い。お前達には、もう充分協力してもらった。あとは、賢者の石の番人たる俺の仕事だ」

「…遠慮しなくて良いんだぞ。ここまで来たら、もう乗りかかった船だ」

「欠片を十個も集めてもらった。ミルツの居場所を突き止めてもらった。これ以上の親切は、逆に心が痛くなる」

…それは…。

…お前、本当律儀な奴だよな。

そして難儀な奴だよ。素直に頼っとけば良いものを。

「元々は、俺の身から出た錆だ。ミルツのことも…賢者の石の封印が解かれたことも…。だから、最後の尻拭いくらいは…自分でさせてくれ」

「…本当に良いのか?珠蓮…」

「あぁ。お前達には…本当に世話になった。感謝している」

…やっぱり。

やっぱり珠蓮には、この国に留まるという選択肢はないようだな。

俺としては、そうしてくれても良かったんだが。

「珠蓮君…。君さえ良ければ、ずっとこの国にいても良いんだよ。聖魔騎士団に頼んで、君の居場所を作ってもらおう。賢者の石の最後の欠片を見つける為にも、組織に所属した方が、人の手を借りることが出来る」

シルナが、ルーデュニア滞在を勧めた。

シルナはそうすると思ってた。

しかし。

「いや…。これ以上、人の手は借りたくない。そもそも賢者の石の存在は、深く隠されていなければならないものだ」

…だから、自分の手で探す?

「その好意には感謝している。だが…俺に、この国でやることはもうない。明朝には、この国を出て…また、流浪の旅に出ようと思う。残る賢者の石の欠片を探しながら」

…そうか。

引き留めたいところだが…決意は、固そうだな。

「…分かったよ。でも…近くに寄ったら、遊びに来てね?」

「そうだな、また顔を出そう。そのくらいの我儘は許してくれ」

折角、共闘までした仲だ。

このまますっぱり縁切りは、後味が悪い。

不思議な縁によって出会ったのだ。縁があったらまた出会い、縁がなければ離れ、それを繰り返す。

それで充分だ。

「あと、国境まで見送りに行くよ。それくらいは許してくれる?」

「あぁ、勿論だ」

それじゃあ。

珠蓮とも、あと数時間で別れだな。

賢者の石の、最後の欠片が見つかっていれば…後腐れもなかったのだが。

こればかりは、俺達にはどうしようもなかった。