神殺しのクロノスタシスⅣ

「…」

あまりにお人好しな珠蓮の言葉に、ミルツは何も言い返せなかった。

でも、珠蓮にとってはそれで充分だった。

言葉を交わさずとも。

「…俺の用事は済んだ。先に戻る」

珠蓮はそう言って、くるりと踵を返して、鉄格子の外に出ていった。

…イケメン過ぎんだろ、あいつ…。

格好つけちゃってさ…。

シルナとは比べ物にならない格好良さ。

「…羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」

「そんなことより」

「そんなことって何?」

「お前、残りの賢者の石はどうした?」

珠蓮はイケメンだから、もうこれ以上詮索はしないつもりのようだが。

俺達としては、その点を確かめずにはいられない。

賢者の石の欠片は、11個あった。

残りの一個が、まだ足りていない。

『サンクチュアリ』の新本拠地をさらってみたが、未だに見つかっていない。

てっきり、ミルツが所持しているか、何処かに隠しているものだと思っていたが…。

あれを回収しないことには、また『サンクチュアリ』の残党が組織を起ち上げる可能性もある。

珠蓮には悪いが、俺達は賢者の石を完全な形で、回収しなければならない。

しかし。

「…残りの賢者の石…?」

ミルツは、戸惑った顔で呟いた。

何?

「お前が持ってるんじゃないのか。残りの一欠片」

「何のことを…?あなた方は異次元世界で、全ての賢者の石を回収したはずでしょう?」

「…!?」

「私が発生させた異次元世界は、全て潰されていました。私は…もう、賢者の石は持っていません」

持ってない…だと?

…これは、想定外だった。