神殺しのクロノスタシスⅣ

「私は何も、全ての魔導師を否定している訳ではありません。魔導師の全員が憎い訳ではないのです」

「なら、何故『サンクチュアリ』に与した?何故賢者の石を持ち出した」

「私一人が騒いでも、誰も取り合ってはくれず、一笑に付されておしまいです。『サンクチュアリ』という組織が活動することで、より多くの共感者を集めることが出来ると思いました」

ミルツは、持論を語り始めた。

自分が、珠蓮を裏切ることになった経緯を。

「お前が否定する魔導師とは何だ?」

「己の力に溺れた、傲慢な魔導師です」

そりゃまた、アバウトな定義だな。

つまり誰のことだよ。俺達か?

「そもそも、何故魔法は、魔導適性に恵まれた一部の人間にしか使えないと思いますか?」

ミルツが問いかけた。

「選ばれた者しか使えない力。特別な力。天がそれを我々に与えたのは、その力を以て、世界を平等にする為だと、私は思うのです」

…。

…何だかややこしくなってきたぞ。

「天から与えられた才能を、誇らしげに他人に見せびらかす。それがどれだけ醜いことか分かりますか?」

それは…分からんこともないが。

「人間が他人に誇って良いのは、自分の努力によって手に入れたものだけです。天から与えられたものを誇る人間ほど、愚かしく、傲慢な者はいません」

「お前は、魔導師が傲慢に見えるのか。天から与えられた才能を、自慢げに見せびらかしているように」

「むしろ、あなたは何故そう見えないのですか?」

成程。

ちょっと、耳が痛いな。

「同じ魔導師として、あまりの醜さに吐き気がします」

魔導師であるからこそ、見えてくるものがある。

同じ力を持つからこそ、その力の使い方の違いに、嫌悪することがある。

「魔法は特別な力です。それは誰の目から見ても明らかです。人智を超えた力は、世の為、人の為に使われなければならないはず。それなのに多くの魔導師は、自分の為に魔法を使います」

「…」

「全ての魔導師は、魔法が使えることを誇ってはいけません。何故ならその力は、努力によって得たものではなく、生まれつき備わっているものだから」

…何だろう。

魔導師排斥論者の言うことは、大体めちゃくちゃに聞こえるんだけど。

この子の場合、めちゃくちゃだと決めつけることが出来ない。

成程、一理あるなぁと思わせてくるところがキツい。

「魔法が使える。だから何だと言うんですか?人間であることは誰しも変わりない。魔法を使ったことによって、誰かから称賛されたり、報酬を受け取るのは間違っています。魔導師が人の為に魔法を使うのは、当然の義務ですから」

魔導師は、天の神様から選ばれて、才能を与えられて生まれてきた。

それは神様が与えた力であって、本人の努力で得た力ではない。

故に魔導師は、天から与えられた力を、世の為人の為に使わなければならない。

決して、己の立場を良くする為や、他人の称賛を得る為ではない。

ましてや、魔導師というだけで特権階級のように扱われるのは、断じて有り得ない。

彼女の考えを要約すると、大体こんな感じだ。