神殺しのクロノスタシスⅣ

ジュリスの好意によって、鍵をもらった俺達は。

鉄格子の錠を開けて、中に入った。

それほど広い部屋ではない。

ベッドと、椅子と、テーブルと…簡素な家具だけが置かれている、静かな牢獄。

その中でミルツ・シュテインは、『サンクチュアリ』の地下にいたときと同じように、

椅子に座って、落ち着いた様子で、俺達を真っ直ぐに見据えていた。

師である珠蓮を見ても、顔色一つ変えない。

恐怖も、怯えも、戸惑いすらない。

全てを受け入れ、覚悟している顔だった。

来るのは分かっていた、と言わんばかりの態度に、さすがなもんだと思った。

聞くところによると、別の収監施設に捕らえられ、取り調べを受けている、他の『サンクチュアリ』メンバーは。

皆が互いに責任を擦り付けようと、必死で言い訳祭りを開催しているそうな。

「それはあいつが言ったから」、「あいつが提案したから」、「あいつが最初にやり始めたんだ」云々。

小学生でも、もう少しマシな言い訳を考えるっての。

それに対し、このミルツ・シュテインという女は…。

「…お前が、『サンクチュアリ』を扇動したのか?」

「えぇ、そうです」

珠蓮の問いかけに、全く躊躇うことなく頷いた。

言い訳さえしない。

潔いなぁ…。ナジュにも見習わせたい素直さだ。

…だが。

「…賢者の石を使って、か?」

「そうです」

「お前はこの為に、賢者の石の封印を解いたのか。封印を解く方法を知る為に、俺のもとに師事したのか?」

「そうです」

…ここまで、取り付く島もなく肯定されてしまうと。

さすがに切なくなってくるぞ。

そこは、少しでも躊躇って欲しかった。

珠蓮にとっては…。

「…」

あまりにも、ミルツがはっきりと認めるものだから。

珠蓮も、かける言葉を失っていた。

…何を思っているんだろうな、今。

自分が信頼して、長い間愛弟子だと思って、師弟関係を築き上げ。

彼女を信じていたから、自分の後継者にする為に、賢者の石の封印の解き方を教えたのに。

愛弟子だと思っていたミルツは、封印の解き方を知るなり、賢者の石を持って逃げ去り。

あろうことか、『サンクチュアリ』などという魔導師排斥論者達に与し、彼らに賢者の石を渡した。

二人の信頼関係は、偽りで成り立ったものでしかなかった。

ミルツは、『サンクチュアリ』に脅されていたのでも、利用されていたのでもない。

むしろ、逆だ。

ミルツが、『サンクチュアリ』を利用し、そして珠蓮を利用したのだ…。