神殺しのクロノスタシスⅣ

「大丈夫か、ジュリス」

「ん?あぁお前らか…」

ベリクリーデを捕まえて、こちらを振り向くジュリス。

溜め息の一つでも聞こえてきそうだな。

「ジュリスとベリクリーデが見張り番だったんだな」

「そうだよ。シュニィに頼まれてな…。だが」

だが?

「こいつは、見張り番に全く向いてない。五分とじっとしてられねぇから、あっちにふらふら、こっちにふらふら。なんか興味あることやらせると、大人しく座ってるんだがな」

幼児だな。

成程、それであやとりか。

手遊びでもやらせていれば、大人しく座っているだろう、と。

しかし如何せん、ベリクリーデは不器用なので。

あやとりの腕前が、幼児以下。

見てみろ。さっきベリクリーデが弄っていたあやとりの紐、自称蝶々を名乗っていたが。

絡まり合ってぐちゃぐちゃになっているのを、ジュリスが直していた。

本当に、幼稚園児と先生って感じだな…。

「…心から同情するよ、ジュリス…」

「全くだ。今度シュニィに頼んどいてくれ。こいつと一緒に任務はやめてくれって」

それは無理じゃないか?

だって。

「すると、それはそれで、お前がいない間ベリクリーデが何してるか分からないぞ」

「あ、そうか…。また奇天烈なことしてんだろうな…。だったら、傍に置いて見張ってる方がマシか…」

どっちに転んでも、って奴だな。

諦めの境地に達したらしいジュリス、遠い目。

そんなジュリスを、ベリクリーデはきょとんとして見つめていた。

自分のせいだとは、微塵も思ってないんだろうな。

ベリクリーデは、そのまま純朴なベリクリーデでいてくれ。

…で、それはともかく。

「…この二人が見張りなのか?」

一連のやり取りを見ていた珠蓮が、怪訝そうに尋ねた。

「この二人で大丈夫なのか?」と聞きたいんだろうな。オブラートに包んでくれてありがとう。

大丈夫だ。

「あぁ、俺達が見張りだよ」

「心配ない。こう見えて二人共、聖魔騎士団魔導部隊屈指の魔導師だから」

何なら、俺より強いくらいだぞ。

「そうか…」

…まぁ、さっきの間抜けなやり取りを見ていたら、不安になるのも分かるが。

しかし大丈夫だ。やるときはやる。二人共。

「で、お前達用件は何だ?面会希望か?」

と、尋ねるジュリス。

あぁ、そうだった。来訪の目的を忘れるところだった。

ベリクリーデの蝶々が、かなりインパクトあったせいで。

「そうだ。ここにいる…ミルツ・シュテインに会わせて欲しい」

珠蓮が、ジュリスに向かって言った。

「…」

ジュリスはしばし無言で、珠蓮を見つめた。

そして。

「…あんた、例の…賢者の石の番人とかいう奴だな?」

「あぁ」

「石を勝手に持ち出した、不肖の弟子に会いに来たのか」

「…そうだ」

ジュリス、お前容赦ないな。

「…気持ちは分かるが、一応規則では、被疑者との面会は、親族と弁護士、聖魔騎士団以外の人間は原則禁止なんだが…」

そうなんだよ。

規則に則れば、珠蓮はミルツに面会することは出来ない。

ジュリスも聖魔騎士団の人間として、規則に反して、面会を許可する訳にはいかないだろう。

それが分かっていたから、俺とシルナがついてきたのだ。