神殺しのクロノスタシスⅣ

リーダーを探す、とは言っても。

古い小さなビルの地下だ。そんなに時間はかからなかった。

それに、何より。

「…来ましたか。聖魔騎士団」

その人物は地下室の一番奥で、俺達が来るのを待っていたかのように、落ち着いて座っていた。

…こいつは…。

「…ミルツ…」

珠蓮が、そう呟いた。

え、ミルツ?

この女が、珠蓮の弟子だったミルツ・シュテインなのか。

じゃあ、やっぱり彼女は『サンクチュアリ』に…。

「…お前が『サンクチュアリ』のリーダーか?」

アトラスが、ゴツい大剣を向けて言った。

すると。

「私はリーダーではありません」

ミルツという珠蓮の弟子は、淡々と答えた。

声に抑揚はなく、怒っている風でも嘆いている風でもなかった。

これだけ敵が大挙して押し寄せているのに、怯えてもいない。

大したタマだよ。

「じゃあリーダーは何処だ」

「『サンクチュアリ』にリーダーなど存在しません。元々『サンクチュアリ』は、王都に潜む魔導師排斥論者のゴロツキ集団でしかありません。全く統率も取れていませんでした」

「…」

「それを、一時的に私がまとめ、力と目標を与え、指示しただけです」

…じゃあ、やっぱりお前がリーダーなんじゃないか。

「ですが、それももう終わりました」

何だと?

「『サンクチュアリ』は、今日で終わりです。私達にはもう、切り札も秘策もありません。つい先程まで、逃げる算段を議論していたところです。…私は、逃げるつもりはありませんでしたが」

…。

…随分と、話の分かる…。

潔い決断だな。

逃げる気がないのなら、こちらとしては助かるが…。

「…裏で新聞を発行して、配っていたのはお前か?」

あくまで、そこが気になるらしいアトラスである。

「私が、そう指示しました。国内の魔導師排斥運動を活発化させる為に」

「成程貴様だな!?シュニィを魔女と呼んだのは!シュニィの何処が魔女なんだ!この、シュニィの背中に輝く純白の羽根が見えないのか!?」

俺も見えねぇよ。

「アトラスさんっ…!いい加減にしなさい!」

「大丈夫だ任せてくれシュニィ!お前の仇は必ず俺が…」

「別に私は何もされてませんったら!良いから落ち着きなさい!」

う、うん。

駄目そうだな。

すると。

「…このような連中に」

ミルツが、吐き捨てるようにそう言った。

初めて、感情を込めた声を聞いた。

「このような連中に敗北したとは…。賢者の石というのも、大したことはありませんね」

彼女の言葉に、賢者の石の番人であり、そして彼女の師匠だった男は、怒りの声をあげた。

「…ミルツ…!お前は…」

「そう、あなたもです寿木珠蓮。所詮は、力に溺れた傲慢な魔導師でしかなかった、ということです」

…それは、一体どういう意味なんだ?