前回の例があるので、突入は慎重に行うもの…と。
誰もが、そう思っていたのだが。
「…見えてきました。あの廃ビルです」
エリュティアの案内で、俺達は王都にある雑居ビル群の一角に来ていた。
前の本拠地と似たような感じだが、ここはもっと…何と言うか…独特の静けさを感じさせる。
逃亡者にはお誂え向きなのかもしれないが、俺達としては、お化け屋敷探索に来たみたいで不気味だ。
しかし。
「あのビルだな?」
最前線で、妻のシュニィと共に陣頭指揮を取るアトラスが、エリュティアに念押しした。
「はい。どうやら…地下にまとまっているようですね。人の気配を複数感じます」
「そうか、分かった」
ん?
何故か、アトラスが一人、大剣をすらりと抜いた。
あれ、普通に持ってるように見えるけど、めちゃくちゃゴツくて重いからな。
大剣と言うより、鈍器に近い。
アトラスぐらいだよ。片手で持ち上げられるのは。
シルナなんかに持たせたら、へなちょこだから、持ち上げる前にぎっくり腰を起こす。
「羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」
「それより、こんなところで剣を抜いてどうするんだ?アトラスは」
目標のビルまでは、まだ数百メートルある。
折角エリュティアが、ピンポイントで『サンクチュアリ』の新本拠地を見つけてくれたのだ。
ここは予定通り、まずは逃げられないよう周囲を包囲して、数人の魔導師を筆頭にして慎重に様子見を、
「…ふふっ」
ナジュが、何かを読んだらしく、噴き出して笑っていた。
おい、お前今何に笑った?
「ナジュ、お前…」
「いえいえ、大丈夫ですよ我々は。それより…」
それより?
「全力で、後、追った方が良いと思いますよ」
は?
ナジュの言葉に、首を傾げていると。
大剣を抜いたアトラスが、燃えんばかりの闘志を宿し、
「ようやく…ようやく追い詰めたぞ!シュニィを魔女呼ばわりし、シュニィを罠に嵌めて異世界に閉じ込め、けしからんことをせんと企んでいた不埒者め!」
と、叫んだ。
あれ?なんかヤバい空気。
「あの、アトラスさん?ちょっと、落ち着、」
殺気立つアトラスを、何とか宥めようとするシュニィだったが。
その努力は、全くの無意味だった。
「大丈夫だシュニィ、今すぐ仇を打ってやる!喰らえ、シュニィの仇!!」
「私は何もされていませんったら!!」
イノシシのごとくビルに向かって突撃していくアトラスと、そんな夫を大声で追いかけるシュニィ。
これが第三者視点だったら、コントに見えるんだろうなー。
なんて、遠い目で見ていたが。
「え、ちょ。アトラス君!?足はやっ…。ってか羽久!追わなきゃ!」
「もうあいつ一人に任せて良いんじゃないかな…」
「良くないでしょ!」
そうか。
なら行くか。
包囲網を敷いて云々の作戦は何処へやら。
すると、俺の傍らにいた珠蓮が、
「…あの男は、頭は大丈夫なのか?」
至極真剣な顔で尋ねた。
まぁ、そうなるわな。良い質問だ。
「…多分、大丈夫じゃないんだろう」
「…そうか」
とりあえず。
アトラスが全員蹴散らしてしまう前に、俺達も合流を急ごう。
誰もが、そう思っていたのだが。
「…見えてきました。あの廃ビルです」
エリュティアの案内で、俺達は王都にある雑居ビル群の一角に来ていた。
前の本拠地と似たような感じだが、ここはもっと…何と言うか…独特の静けさを感じさせる。
逃亡者にはお誂え向きなのかもしれないが、俺達としては、お化け屋敷探索に来たみたいで不気味だ。
しかし。
「あのビルだな?」
最前線で、妻のシュニィと共に陣頭指揮を取るアトラスが、エリュティアに念押しした。
「はい。どうやら…地下にまとまっているようですね。人の気配を複数感じます」
「そうか、分かった」
ん?
何故か、アトラスが一人、大剣をすらりと抜いた。
あれ、普通に持ってるように見えるけど、めちゃくちゃゴツくて重いからな。
大剣と言うより、鈍器に近い。
アトラスぐらいだよ。片手で持ち上げられるのは。
シルナなんかに持たせたら、へなちょこだから、持ち上げる前にぎっくり腰を起こす。
「羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」
「それより、こんなところで剣を抜いてどうするんだ?アトラスは」
目標のビルまでは、まだ数百メートルある。
折角エリュティアが、ピンポイントで『サンクチュアリ』の新本拠地を見つけてくれたのだ。
ここは予定通り、まずは逃げられないよう周囲を包囲して、数人の魔導師を筆頭にして慎重に様子見を、
「…ふふっ」
ナジュが、何かを読んだらしく、噴き出して笑っていた。
おい、お前今何に笑った?
「ナジュ、お前…」
「いえいえ、大丈夫ですよ我々は。それより…」
それより?
「全力で、後、追った方が良いと思いますよ」
は?
ナジュの言葉に、首を傾げていると。
大剣を抜いたアトラスが、燃えんばかりの闘志を宿し、
「ようやく…ようやく追い詰めたぞ!シュニィを魔女呼ばわりし、シュニィを罠に嵌めて異世界に閉じ込め、けしからんことをせんと企んでいた不埒者め!」
と、叫んだ。
あれ?なんかヤバい空気。
「あの、アトラスさん?ちょっと、落ち着、」
殺気立つアトラスを、何とか宥めようとするシュニィだったが。
その努力は、全くの無意味だった。
「大丈夫だシュニィ、今すぐ仇を打ってやる!喰らえ、シュニィの仇!!」
「私は何もされていませんったら!!」
イノシシのごとくビルに向かって突撃していくアトラスと、そんな夫を大声で追いかけるシュニィ。
これが第三者視点だったら、コントに見えるんだろうなー。
なんて、遠い目で見ていたが。
「え、ちょ。アトラス君!?足はやっ…。ってか羽久!追わなきゃ!」
「もうあいつ一人に任せて良いんじゃないかな…」
「良くないでしょ!」
そうか。
なら行くか。
包囲網を敷いて云々の作戦は何処へやら。
すると、俺の傍らにいた珠蓮が、
「…あの男は、頭は大丈夫なのか?」
至極真剣な顔で尋ねた。
まぁ、そうなるわな。良い質問だ。
「…多分、大丈夫じゃないんだろう」
「…そうか」
とりあえず。
アトラスが全員蹴散らしてしまう前に、俺達も合流を急ごう。


