「…もう、王都からは出られませんよ」

唾を飛ばしながら口論する、『サンクチュアリ』のメンバーに。

私は、無情にそう告げた。

「な、何…?」

「聞こえませんでしたか。言葉の通りです。もう王都からは出られません」

どうやらこの人達は、聖魔騎士団の手を逃れたかったようだけれど。

もう、それが出来る時期は過ぎた。

認めざるを得ない。

予想以上に、この国の番人は優秀だった。

賢者の石によって作った、あの異次元世界。

そこに、聖魔騎士団魔導部隊の大隊長を名乗る、強力な魔導師達を…。

傲慢な魔導師達を…閉じ込めてしまえば。

永遠に出てこられないか、あるいは何十年、何百年単位で、戻ってはこられないと思っていた。

前者なら儲け物だと思っていたが、この国の魔導師は、予想以上に優秀だった。

まさか、こんな短期間で…たった数日足らずで…戻ってくるなんて。

完全に奇襲をかけたはずなのに、何故奴らは戻ってきている?

そもそも、何故戻ってこられたのだ?

異次元世界の突破法を、どうやって知った?

偶然閃いたとでも言うのか?まさか…。

奴らはそれぞれの世界で、心を折られるような体験をしたはずだ。

常人の精神力なら、簡単に呑み込まれてしまうほどに。

それなのに、どうして奴らは戻ってきたのだ。

どんな図太い神経をしている…。

…さすが、国を代表する魔導師ともなれば。

そんなことで動揺するほど、繊細な神経の持ち主という訳ではないらしい。

異次元世界から戻ってこられたのだということは、それだけ面の皮が厚いということだ。

他人の不幸に背を向けて、自分が帰還することだけを優先したからこそ、戻ってきているのだから。

卑劣な人間達。

そして、優秀な魔導師だ。

本来の計画なら、奴らが次々に異次元世界に囚われ。

国内から有数の魔導師が消えたことで、動揺する国民を『サンクチュアリ』がまとめるつもりだった。

ここぞとばかりに、魔導師排斥論を国内に浸透させるつもりだった。

可能なはずだった。賢者の石の力を使えば。

例え異次元世界から帰還出来たとしても、帰ってきた頃には、この国に奴らの居場所などなくなっているはずだった。

…そのつもりだったのに。

「最早逃げ道などありません。聖魔騎士団なら、こんなお粗末な隠れ場所など、すぐに見つけるはず。座して時を待つのが良いでしょう」

私達に出来る抵抗など、もうそれ以外にない。

聖魔騎士団には、異次元世界をあんなに早く脱出出来るほどの、優秀な魔導師が集まっているのだ。

今頃、私達の居場所くらい突き止めているはず。

そして、傲慢な顔で、勝ち誇った顔で、醜悪な顔で、我が意を得たりとばかりに、私達を捕まえに来るであろう。

私達は、それを待っていることしか出来ないのだ。