神殺しのクロノスタシスⅣ

珠蓮は、自分のやるべきことを全うしていたに過ぎない。

亡き師から封印を受け継ぎ、そして自分に何かあったときの為に、自分も弟子を取って、賢者の石の封印を守ろうとした。

しかし、不幸にもその弟子が自分を裏切り、賢者の石を持ってトンズラした。

その弟子が、そのまま『サンクチュアリ』に賢者の石を献上したのか。

それとも『サンクチュアリ』に脅されて、無理矢理取り上げられたのかは分からないが…。

いずれにしても、珠蓮に罪はない。

事実彼は、弟子がトンズラしたと見るや、すぐに探しに出ているし。

『サンクチュアリ』という組織や、その本拠地を探し当て、賢者の石を回収しようとした。

そのとき、俺達とドンパチした訳だが…。

あれは仕方ない。『サンクチュアリ』の本拠地で、まさに自分の探している賢者の石を持っている者が、二人も現れれば。

そりゃ「返せ」となるのは当然だ。

俺達もあのときはまだ、賢者の石の封印云々のことは知らなかったしな。

お互い、こうして答え合わせをして初めて、勘違いし合っていたことが分かったのだ。

こうなったらもう、お互い様だ。

誰が悪い訳でもない。

強いて悪者をあげるとするなら、賢者の石の封印を解いたという、珠蓮の弟子だな。

「お前の弟子は、今何処にいるんだ?」

俺は、単刀直入に珠蓮に尋ねた。

「分からない。『サンクチュアリ』にいるのか…。それとも別の場所にいるのか…」

…そうか。

まぁ、分かってたら、さっさととっちめに行くわな。

「じゃあ、質問を変えよう…。お前の弟子は何者だ?」

「…それなら答えられる。言うまでもないが…彼女は魔導師だ。名を、ミルツ・シュテインという」

ミルツ…。ミルツ・シュテインね。

聞いたことのない名前だ。

「彼女を弟子にして、もう何千年にもなる」

なっが。

いや、むしろ…それだけ長い間、一緒にいたからこそ。

ミルツなる弟子に信頼を寄せ、封印の解き方も教えたのだろう。

何千年も師弟関係にあったのに、封印の解き方を教えた途端に、裏切られて逃げられるとは。

珠蓮は自分のせいだと責めるが、珠蓮自身が一番傷ついているのは言うまでもない。

「信頼していたつもりだった…。彼女なら、封印を託すのに相応しいと…。だが…俺の目は節穴だったと言わざるを得ない」

「全くですよ」

おいナジュ。馬鹿。

とどめのような一撃を刺すな。

「そ、それは。もう過ぎたことはしょうがないよ。それに、ミルツさん…っていう人にも、何か事情があったのかもしれないし…」

と、やはり他人を庇おうとする天音である。

が、

「いかなる事情があろうとも、賢者の石の封印を解いてしまった事実に変わりはない」

こればかりは、珠蓮も譲らなかった。