その日の夜。

俺は遅くまで学院長室にいて、シルナに付き添っていた。

こいつ一人にしたら、絶対また自分を責め始めると思ってさ。

それに、気になることもあった。

「羽久…。自分の部屋に戻っても良いんだよ?もう夜遅いし…」

と、シルナは言っていたが。

「それはお前もだろ。お前が寝るなら俺も寝るよ」

「いや、私は…」

ほら見ろ。寝る気ないじゃないか。

「年寄りの癖に夜更しとは。慣れんことをすると、一気に老けるぞ」

「…羽久が私に失礼なこと言ってる…」

事実だ、事実。

それよりも。

「シルナ、その賢者の石」

「ん?」

俺は、机の上に並べたままの、賢者の石の欠片を指差した。

八つの石の欠片を。

「それって、もとに戻せないのか?」

「もとに?」

「元々は一個の石だったんだろう?だったら、欠片を集めれば、もとの一個の石に戻るんじゃないのか」

未だにバラバラの欠片のままだぞ。

まだ欠片の数は不完全だが、せめてその八つの欠片を一個にまとめておけば、盗難や紛失の恐れはぐっと減る。

しかし。

「それがね…。そのやり方も、私にはよく分からなくて…」

…そうだったのか。

「それも、イーサ・デルムトじゃないと分からないのか」

「そうだね…。賢者の石について分かることは、全て彼に一任されていたから…」

シルナの預かり知るところではない、と。

それなら仕方ない。

「でも、さすがにこのままだと、無防備過ぎるよね…。…金庫にでも入れようか?」

「金庫くらいで、盗難を防げるか?」

魔導師が相手なら、普通の金庫くらい普通に壊せるぞ。

一般人相手なら、気休めにはなるだろうが。

「金庫に防御魔法をかけておけば、少しは開けにくくならない?」

「あぁ、成程…。まぁ、やらないよりはマシだな」

「じゃあ、ちょっと金庫を用意してこよう…」

そう言って、シルナは何処からか、頑丈そうな金庫を持ち出してきた。

ゴツいな。

「何処から持ってきた?その金庫」

「私の秘蔵のチョコを入れてる金庫」

そりゃ重要なもんが入ってるな。

金庫にチョコ入れるのか?それ、冬場は良いとして夏場はヤバくないか?

「チョコと一緒に収めるのかよ…」

「え?うん…。私が持ってる金庫の中では、一番頑丈だよ。重くて、持ち去るのも一苦労だし」

開けたら、漏れなくチョコレートが入ってる金庫って。

持ち出す奴がいたら、そいつはびっくりするだろうな。

まぁ、持ち出そうとするような輩は、俺が成敗してくれるが。



…と、思ったそのとき。