全力駆け足で、女性隊舎の裏庭に行くと。

「よいしょ、よいしょ」

凄いへっぴり腰で、木にのこぎりを当てて、押したり引いたりするベリクリーデの姿があった。

とりあえず、姿は確認した。

で、問題は。

…こいつは何をやっているんだ?

一目瞭然。木を切っている。

しかも、桜の木を。

お前って奴は…。

「おい、ベリクリーデ…!」

と、声をかけようとしたら。

「ふー、疲れた…。ここいらで、ちょっと一休みしよう」

おい。いっぱしのお百姓さんみたいなこと言ってんじゃねぇ。

お前魔導師だろ。

「こら、ベリクリーデ!」

「わっ、びっくりした」

大声でベリクリーデを呼ぶと、彼女はのこぎりを持ったまま、きょとんとしてこちらを振り向いた。

きょとんとしたいのはこっちだよ。

「お前何やってるんだ!?」

「休憩」

それは見たら分かる。

「そうじゃなくて!その手に持ってるものは何だ!」

「チェーンソー」

のこぎりな、のこぎり。

チェーンソーじゃなくてマジで良かったと、心から思う。

のこぎりだから良いって訳じゃないけど。

これがもしチェーンソーだったら、木どころか、ベリクリーデも危なかったかもしれない。

素人が簡単に扱っちゃいけないんだぞ、チェーンソーって。

下手したら、自分を切って怪我する事態にもなりかねないからな。

いや、のこぎりも危ないんだけどな?

見たところ、ベリクリーデに怪我はなさそうだ。

そこは一安心、だが…。

全然安心出来ない状況が、目の前にある。

「お前、そののこぎりで何をしようとしてる?」

「あぁ、これ?木を切ってるの」

マジかよ。

嘘であってくれたらと思ったけど、やっぱり駄目だったか。

現実は残酷だ。

「ジュリスも手伝ってくれる?今、丁度良いところまで切れて…」

「アホ抜かせ」

何が良いところまで、だ。

俺は、慌ててベリクリーデがのこぎりを入れていた、桜の木の幹を確認した。

確かに、のこぎりによって傷ついてはいるが。

どうやらベリクリーデは、チェーンソーどころか、のこぎりの扱いも下手くそなようで。

切り傷はいくつもついているが、それほど深くはない。

幹の半分どころか、三分の一どころか、五分の一にも達していない。

これくらいなら、精々掠り傷だ。

ベリクリーデが筋金入りの不器用で、助かった。

俺は回復魔法の応用で、傷ついた木の幹を修復した。

「あっ。ジュリス酷い」

何が酷いんだよ。

酷いのはお前の奇行だろ。