神殺しのクロノスタシスⅣ

「どうして、そう思う?」

「彼が…賢者の石を使っていたからだよ」

賢者の石を…使ってた?

「羽久も覚えてるでしょう?彼と戦ったとき…」

「…あぁ」

あいつが持ってた賢者の石から…謎ビームが発射されてたよな。

まるで、賢者の石を自由自在に操っているようだった。

「あの力は何なんだ?あいつは、何であんなことが出来る?」

「賢者の石っていうのは、もとを正すと、非常に強大な魔力の結晶なんだ。だから、ああして石に込められた魔力を引き出して、武器として使うことも出来る」

…なんてことだよ。

「賢者の石に、そんな力が…。じゃあ、それを使えば、一般人でも賢者の石の魔力を使うことが…」

「いや、それは出来ない」

「出来ない?」

でも、賢者の石は魔力の塊なんだろう?

使い方さえ覚えれば、誰でも…。

「賢者の石は、とても繊細なんだよ。使い手を選ぶ。あんな風に賢者の石の魔力を使うには、恐らく相当長い間、賢者の石を扱ってきたんだと思う」

「何…?」

「正直、私や…シュニィちゃんやジュリス君でも、賢者の石を扱えるようになるには、千年はかかると思うよ」

なっが。

繊細な魔法については十八番とも言える、シュニィやジュリスでも千年?

それ、俺だったらどうなるんだよ。

万年?

「それだけ使い手を選ぶし、訓練も技術も才能も必要だ。彼が賢者の石を扱えるのは、彼自身が賢者の石に選ばれたから」

…。

「本来はイーサ・デルムトのみが、賢者の石を扱うことが出来たはず。でも今は、謎の彼が代わりに賢者の石を保持している…。これが、どうしても引っ掛かる」

…そうだな。

あの謎の男が、イーニシュフェルトの里の族長が信頼したイーサ・デルムトという魔導師を脅し、騙し、賢者の石の石を奪い。

奪った石を扱う為に、律儀に千年単位の訓練を続け、我が物にした…。

そう結論づけるには、あまりに情報が足りない。

里の族長の信頼を受けたイーサ・デルムトが、本当に脅されたくらいで、封印の在処を教えるのか?

何故その男は、そうまでして賢者の石を手にしたかったのか?

何かしらの目的があったのだろうか?その目的は何だ?

じゃあその謎の男が、『サンクチュアリ』を束ねているリーダーなのか?

でも、だとしたら、そいつも賢者の石の欠点について知っているはずではないか?

賢者の石は、完全なる魔封じの石ではないことを。

そうと分かっていて、俺達を異次元世界に送り込んだのか…?

…分からない。

あの謎の男は、一体何がしたかったんだ?