神殺しのクロノスタシスⅣ

封印の解き方を伝えられたのは、そのお友達さんだけだってんだろう?

なら、そいつが犯人だ。

もしくは、そいつが誰かに封印の解き方を漏らし、その誰かが封印を解いた。

…それ以外に考えられない。

少なくとも、今回の事件に何かしらの関わりがあるのは明白だ。

「そいつをとっ捕まえて締め上げれば、全て解決するのでは?」

と、相変わらず過激なイレース。

そうなんだけど。そりゃまぁそうなんだけども。

腐った根っこは一つ残らず断ち切る、って戦法だな。

間違ってはないんだが。

しかし。

「それがね、イレースちゃん…。多分それは違うと思うんだ」

シルナが、困惑したようにそう言った。

…違う?

「何が違うんです。封印の解き方はそいつしか知らないんでしょう?なら、そいつが封印を解いたか、あるいは第三者に封印の解き方を教えたかのどちらか。いずれにしても、封印の秘密をバラしたことに変わりはありません」

「そうだね。そうだと思う。彼は…イーサ・デルムトは…何らかの理由で、封印の秘密を破ったんだ」

そんな名前なのか。族長のお友達は。

「でも、それがどういう理由なのかは分からない。誰かに脅されたのか、騙されたのか…」

「…やけにその人の肩を持ちますね」

「…私も信頼してた人だったから。里の中にはイーサ・デルムトを嫌っている人も多かったけど、慕っている人もまた多かったんだ。特に私のような…里の中では、若い部類に入る者達は」

…。

族長を除く老人からは嫌われ者でも、若者には人気だったと。

「外と出入りしながらも、彼はイーニシュフェルトの里の繁栄を、心から望んでくれているようだった。里の伝統を尊重してくれていた。だから、族長の信頼を得られた」

「…」

「そんな人が、託された封印の秘密を、安易に外部に漏らすとは思えない。彼は…信用出来る人だったんだ」

…シルナが、ここまで言うということは。

イーサ・デルムトなる人物は、本当に信用出来る人だったんだろう。

そんな人が、封印の秘密をバラした。

それはきっと、やむにやまれぬ事情があったからだ。

脅されたか、騙されたか、利用されたか…本人の意志ではなく、誰かの悪意によって。

じゃあ俺達がとっ捕まえて締め上げるのは、その悪意ある誰か、ってことになるな。

「それにね…現状一番の容疑者候補は、イーサ・デルムトじゃない」

「あ?」

「私と羽久がこの世界に戻ってきたとき、会議室と、羽久の賢者の石を持ち去った…あの、謎の男なんだよ」

…ここに来て。

賢者の石の事情は、そいつに絡むのか。