神殺しのクロノスタシスⅣ

イーニシュフェルトの里っていうのは、頭の堅い長老連中が進んだ魔導化学を独占し、外部に漏出させることを酷く嫌っていたんだろう?

それなのに、賢者の石なんて危険な魔法道具の封印の在処を、里の外の人間に伝えた?

賢者の石の封印を、外の人間に託した?

そんなことが有り得るのか?

「何で…。どうして、シルナに伝えなかったんだ?里の中で生き残ったのは、シルナと…」

…あとは、族長の孫娘であるヴァルシーナだけ。

何故、この二人のどちらかに教えなかった?

敢えて、イーニシュフェルトの里とは無関係の人間に託したんだ…?

「誰を封印の守り人にするかは、長老達が決めたことだから…はっきりしたことは言えないけど…」

シルナは、困ったように言った。

「恐らく、私が拷問されて封印の在処を吐いてしまうことを恐れたんだと思う。イーニシュフェルトの里が、様々な魔法道具を研究していたことは、外の人間にも知られていたからね」

…成程。

シルナをとっ捕まえて拷問すれば、便利な魔法道具の在処を吐くかもしれない。

でも、敢えてシルナに封印の所在を教えなければ、いくら拷問しても、出てくるものは何もない…ってことか。

「確かにあの頃、イーニシュフェルトの里については、色んな噂があった。魔法の理さえ変える道具も作ってんじゃないか、ってな」

当時の状況を知るジュリスが、そう補足した。

「誰も実物を見た訳じゃねぇから、どれも憶測だけどな。中には、里で研究されている情報を手に入れて、ひと稼ぎしてやろう、なんて目論んでるアホもいたよ」

それは本当にアホだな。

でも、実際やろうと思えば、出来なくもなかったのだ。

現実にイーニシュフェルトの里では、魔法の理そのものを変えようとする研究…賢者の石…を、開発していたのだから。