神殺しのクロノスタシスⅣ

いや、待て。

俺が封印を解けないのは無理もない。

俺や、シルナを除く俺達は、そもそも賢者の石の存在さえ、今日に至るまで知らなかったのだから。

知らないものの封印を解けと言われても、それは無理な話だ。

だから、俺達には出来ない。

でも、シルナは別だろう。

だってシルナは、この賢者の石を開発した、イーニシュフェルトの賢者の一人なんだろう?

開発者が封印を解けないって、それはどういうことだよ。

「そういう問題じゃないみたいですよ、羽久さん」

と、ナジュが言った。

そういう問題じゃない…?

「賢者の石の封印はね、解除者の実力がどうこうじゃないんだ。勿論、一定の実力は必要だけど…。解き方を知っていれば、一般の魔導師でも解ける」

何だって?

「例えるなら、ダイヤル式の鍵をかけられた金庫のようなものだよ」

と、シルナが言った。

「ダイヤルのナンバーを知っていれば、誰でも開けられる。でもダイヤルのナンバーを知らない者は、どうやっても金庫を開けられない。そういうこと」

「だが、その鍵を強引に壊してしまえば、金庫は開けられるんじゃないか?」

ジュリスが尋ねた。

その通りだ。

金庫の中に、宝石があると分かっているなら。

律儀にダイヤルナンバーを探さなくても、金庫ごと持ち去って、ぶち壊してやれば良い。

そうすれば、中身の宝石を取り出せる。

しかし。

「無理だよ。その金庫は、絶対に壊れない」

「全力で魔法をぶつけても、か?」

「うん。物理的な破壊は絶対に不可能。その金庫は、ダイヤル式の鍵を正しく合わせることでしか、絶対に開かないんだ」

…。

…シルナがそう断言するってことは、それが事実なんだろう。

まぁ、力ずくで抉じ開けることが出来るなら、話は早いもんな。

それが出来ないからこそ、今日に至るまで誰も、封印を解くことが出来なかったんだろうし。

「じゃあ…そのダイヤル錠のナンバーは、学院長先生も知らされてないんですね?」

「そう。私も知らないんだ。封印の解き方は」

そういうことか。

だから、シルナでさえ封印を開けられないのか。

ダイヤルのナンバーを、知らされていないから。